「私の考える後継者問題」
近畿協議会代表(京都府組合)田中 一隆
1992年幕張で世界大会が行われた年、私は理容師の第一歩を踏み出しました。当時日本はバブルが崩壊し平成大不況へと向かいますが、直後の理容はあまり大きな影響を受けず、むしろ21世紀に入ってから本格的に不況の波が押し寄せ、未だ尾を引いているように感じます。
現在業界が持つ課題の一つに後継者問題があり、全理連を中心にメデイアを通じてイメージアップを図ったり、中高生向きの職業体験をしたりと理容をPRして頂いておりますが、私が後継者問題で最も危惧するのは、若手理容師の組合離れです。理容学校生を増やし理容師を増やす努力は最重要課題ですが、彼らが将来非組合員なれば、それでは後継者とは言えません。12万軒あった組合員軒数は年々減少傾向にありますが、それ以上に80%という加盟率が今後極端に低くなる危険性があります。現に美容組合の加盟率は30%程度しか無いそうです。
理容学校の生徒にどんな店で働きたいかを尋ねると、“女性もできるユニセックスサロン”という回答が半数を占めますが、こういったサロンは組合講習には行かず、メーカーや美容関係の講習に参加されるようです。またスタッフは、何よりも数字を上げることを叩き込まれ、青年部やコンテストといった若手理容師が組合を身近に感じる事がないまま修行をし、アウトサロンとして独立する傾向にあります。こういった現状を打開しない限り組合加盟率は下がり続け、やがて業務独占を維持する事は困難になるでしょう。後継者問題は単に跡継問題ではなく、“このままでは我々は業を守っていけるのか”というところにまで危険が迫っているのです。
私の修行時代を振り返ってみると“何故休みをつぶしてまで”と思いながらも半ば強制的に講習に行ったことを思い出しますが、こうして講習やコンテストに参加したおかげで私は多くの先生に御指導頂き、多くの仲間に恵まれました。こういった人とのつながりは理容の素晴らしいところであり、また今の私にとっては何よりの財産で、親として正しく導いて下さった師匠には大変感謝しております。今時のスタッフにはコンテストをさせたり、休みに講習に行かして不満を抱かすよりも、“店のことさえしてくれたらええ”そういうオーナーもいらっしゃいますが、こうした若手経営者の組合離れが進めば必ず後継者問題に悪影響が及びます。金の卵とも言うべく若手理容師が最初に組合という組織を肌で感じる機会は青年部やコンテストに他ならないはずです。
後継者問題対策として若手理容師・若手経営者・組合を一つの線で繋げる為に、私の支部では二世塾という勉強会を開いております。跡取り理容師と執行部がデイスカッションすることにより、若手の組合離れを阻止し、支部とサロンを活性化する試みです。このように若手経営者と組合が少しでも接点を持つ事が後継者問題解決への第一歩で、こういった取り組みは全理連や都道府県組合よりも支部での活動が重要ではないでしょうか。
今後業界が発展する為には、未来の組合員を育てる経営者さん、皆様の理解と協力と皆様からの教育が必要です。どうか今一度スタッフが青年部やコンテストに参加されるように背中を押して下さい。そうでなければ仮に理容師が増えても、アウトサロンが増えるのでは業界の発展はありません。
今日この会場に来ていらっしゃる意識の高い皆様、特に次世代を担う若手理容師の皆様、ここ近年カメラ片手にモデルさんを追いかける若者の姿が減っています。どうか来年は業界の最大イベントこの全国大会へ、仲間を誘って足を運び若い力で大会を盛り上げて下さい。10年後、そして50年後の理容業界の為に。