理容業ならびに全理連の将来像に関する提言

本提言の構成

1.趣旨
2.理容業界を取り巻く今後の環境変化
3.組合員数の見通し
4.財政の見通し
5.連合会運営のあり方
6.提言を具体化するための方策

 

1. 趣旨

  本提言書は、2001年10月に発足した全国理容総合研究所が、1996年10月に作成された「理容産業21世紀ビジョン」をさらに具体化するために、理容業界と全国理容生活衛生同業組合連合会(以下、全理連)の将来像を予測し、全理連の今後の運営のあり方について、提言をまとめたものである。21世紀ビジョンが公表されてから既に5年以上が経過していることもあり、基本的な考え方は変わらないが、公衆衛生思想、経済情勢、競争条件が大きく変化しており、具体的な行動に移す段階での実践的提言が求められている。
   異業種における組合事例をみても分かるように、組合員の自然減は社会の趨勢であり、組合運営についても難しい局面を迎えている。理容業も決して例外ではない。この提言は、それに打ち勝つ魅力をつくり、強力な理容産業構築を実現するための指針としてまとめたものである。

 

2. 理容業界を取り巻く今後の環境変化

(1)今後の環境変化
  理容業界を取り巻く環境は、大きく変化しつつあり、既に、全国の理容店の中にはこの環境の変化に対応できない店も出てきている。全理連としては、全ての組合員の理容店が繁栄することが願いであり、そのためには環境の激変に対応できるよう、技術・接客等経営の強化を図ることが必要である。現在進行しつつあり、また、今後起こることが予想される環境の変化は次の通りである。

① 利用者ニーズの多様化・高度化
   利用者ニーズの多様化・高度化は、既に多くの業種で起こっているが、近年、理容サービスについても、顕著になってきている。一部の利用者が美容店で施術を受けたり、組合員外である低価格店に行ったりする例も見られるのは、その現れである。これをそのまま放置しておけば、この傾向はますます顕著になってくるであろう。しかしながら、これらの動きはまだ一部であり、各理容店が今のうちに多様化・高度化する利用者ニーズに対応するための技術・接客等経営の見直しをすることにより、十分に対応できると考える。

② デフレの進行
   デフレ(物価が継続的に低下していく現象)の進行は、全ての産業に大きな影響を及ぼしている。デフレは、規制緩和や産業構造の変化といった構造的要因と、不況の長期化といった循環的要因が重なって起こっており、今後暫くは続くことが予想される。一般には、単価の低下によって売上が増加せず、経営にとってマイナス面が大きいが、理容業界にとっても、料金を上げられないなどの影響を及ぼすことが予想される。

③ 理容・美容業界の垣根の低下
   理容業・美容業はそれぞれの法律によって定められている。今後もこの区別は暫く続くことが予想されるし、全理連としても業権を守ることが必要であるとの立場をとっている。しかし、現状ではそれ以外の要因(例えば、利用者行動)によって、理容・美容業界の垣根が低下しつつある。これは、利用者の目から見て、従来の理容サービスと美容サービスとの区別が曖昧になり、「ヘアビジネス」として認識するようになりつつあることを意味している。

(2)環境変化への対応策
  以上の経営環境の変化に対応し、理容店は次の経営努力をすることが必要になるが、同時に全理連も、組合員に対し、最大限の支援をすることが不可欠である。

① 個性ある店作り(業態化)
   理容店同士、理容店と美容店、理容店と異業種からの参入企業等、との競争激化の中で、生き残り、更に発展するためには、明確な経営コンセプトを持って、個性ある店作りをすることが必要である。個性ある店作りを成功させるには、対象となる顧客層と提供するサービスの組み合わせによって、顧客に生活提案を行う、「業態化(ぎょうたいか)」を推進することが必要である。これは、単に理容店自らの努力だけでは迅速に進めることは難しい面もあるので、全理連と全国理容総合研究所が、新しいメニュー提案、技術接客講習、店舗設計支援等を、メーカー、卸業、設計事務所等と協力して推進することが必要である。

② コスト削減
   デフレ、競争激化の経営環境下で、利益を出して生き残り、更に発展するためには、基本的にはコストの削減を図ることが必要である。これによって、仮に売上が減少した場合でも、店の経営を存続させることが可能となる。コスト削減は、人件費・物件費等、原則として各店で実行するものではあるが、同時に全理連としても、組合員に対し、必要性を教育することが望ましい。

③ 内部管理の強化
   上記の個性ある店作り、コスト削減を行う前提として、従業員管理・教育、計数管理等、店の内部管理の強化が必要である。内部管理は、原則として各店で実行するものではあるが、同時に全理連としても、組合員に対し、最低限の内部管理方法について情報を提供することが望ましい。

④ 国民への安心・安全サービスの徹底
   理容師法の遵守と業務独占を堅持するため、国民生活の衛生水準の高度化に対応し、衛生・消毒の徹底に努めるとともに香粧品類の安全性を確保することが不可欠である。

 

3. 組合員数の見通し
  全理連の今後の活動の基盤として、組合員数の維持・拡大は重要な経営目標である。

(1)シナリオ
  次の二つのシナリオを想定し、5年後、10年後の組合員数を予測する。
(第1シナリオ)業界規制が大きく変化せず、ここ4年間の平均的な減少が今後も続く場合。
(第2シナリオ)今後2~3年後に消費者から見た理容・美容の垣根が低下し、利用者ニーズに対応しきれず、組合員が理容組合に所属するメリットの一部が失われたと感じるに至った場合。

(2)予測手法・仮定(全理連賠償責任共済のデータから抽出)
① 都道府県ごとの予測を積み上げる方法をとる。
② 年齢層ごと(5年刻み)の加入・脱退者数をそれぞれ予測し、現在人員に増減させる。
③ 若年層の新規加入がなく、高齢者層は99才までとする(改善シナリオは、若年層の新規加入を加味)。
④ 第2シナリオについては、垣根が低下した後、従来の2倍のスピードで組合員数が減少する(他の規制緩和業種の例から)。

(3)結果
  第1シナリオの場合で10年後7万7,000人、第2シナリオの場合で10年後5万8,000人まで組合員数が減少する。

組合員数の将来推計① 2001年度 2006年度 2011年度
(第1シナリオ) 97,500人 86,000人(△11.8%)  77,000人(△21.0%)
(第2シナリオ) 97,500人 80,000人(△17.9%)  58,000人(△40.5%)

  ただし、政府の構造改革が進展する中で、(第2シナリオ)よりも更に早期に垣根が低下する可能性もリスクシナリオとして存在する。

(4)改善策
  若年層の新規加入を促進する。1年で二代目候補者の2割が組合に加入したと仮定する。
  二代目候補者は、<新規理容師資格取得者×理容店数÷理容師数>で都道府県ごとに算出する。(新規理容師資格取得者には、二代目候補者も、そうでない者もいるため、ここでは、全理容師のうち、施設数分しか二代目候補になりえないと仮定する)。
  ①二代目層の組合員への取り込みで、組合員数の減少を多少食い止める効果あり。
  ②また、平均年齢の上昇を多少抑制する効果あり。

組合員数の将来推計② 2001年度 2006年度 2011年度
(第1シナリオ) 97,500人  88,000人(△ 9.7%) 79,000人(△19.0%)
平均年齢   60.6歳 64.0歳
(第2シナリオ) 97,500人  82,000人(△15.9%) 60,000人(△38.5%)
平均年齢   60.4歳 63.3歳

 

(5)結論
  若年層の新規加入を促進したとしても、最近の新規理容師数の減少から、自然体対比で2,000人位の組合員増加程度しか見込めない(例:第1シナリオで2011年度の自然体数は77,000人で、改善シナリオでは79,000人)。また、平均年齢も10年後の自然体対比で4歳位の若返り効果しか見込めない。
  しかしながら、組合の魅力を高めることによって、若年層を呼び込める場合もあり得る。また、二代目層のみならず、理容店従業員も理容師であれば、希望者には何らかの形で組合に参画する途を作ることが、今後の組合運営にとっては得策である。
   ただし、そのためには、後述するように、全理連自らが発想を転換し、組合員となるメリットを目に見える形で提示することが必要である。

 

4. 財政の見通し
  財政の健全性維持は、各組合・連合会を問わず、組合活動の活性化に不可欠である。どの業界組合を見ても、財政の健全性を維持できていない組合は崩壊の危機に瀕している。後述の「異業種における組合事例」にあるように、いくつかの組合が「賦課金」を徴収せず、このことが組合活動を衰退に追い込んで来た面がある。この点で、全理連・理容組合は、現状恵まれた位置にあると言えるが、各組合も含め、組合費収入を基本にした独立採算を取るという健全な運営なしには、今後もこれを維持できるかどうかはわからない。
   全理連財政の将来については、組合員の減少に伴い、組合費の見直し、あるいは支出を削減しない場合、一般会計は2006年度には赤字となる公算であり、その場合には、組合費の見直し、あるいは何らかの支出削減が不可欠である。

一般会計収支決算予測
(単位:千円)

2000年度実績 2006年度 2011年度
(第1シナリオ) 59,802 △6,700 △44,600
(第2シナリオ) 59,802 △63,600 △183,700

 

5. 異業種における連合会運営のあり方
   組合運営上の問題は、他の中小・零細企業組合も同様であり、規制緩和下の組合運営のあり方を他業種の例で見た上で、全理連の運営のあり方を考察したい。

(1)異業種における組合運営
① 規制緩和・市場経済化の中で、中小・零細企業組合は中小・零細企業のセーフティー・ネットとしての役割が求められている。
② 規制緩和によって、中小・零細企業の転廃業が進み、組合員の減少から賦課金収入の減少、共同事業の利用減少を招き、組合の財政基盤の脆弱化によって組合運営に支障が出るケースが多い。

(2)異業種における組合が果たす役割
① 中小・零細企業のセーフティー・ネット:経営・生活の安定が図れる制度作り(共済・最低限の仕事の確保等)が組合員にとって最低限必要である。
② これに加え、各組合員が売上・収益を上げられるような、商品・サービスの開発、市場に関する情報提供、共同でしか取り組めないプロジェクト等を行うことによって、組合活動の実をさらに上げることができる。

(3)異業種における業界組合事例(サービス業のみ)
① タクシー協同組合
  タクシー協同組合では、21世紀ビジョンを策定し、改革を推進している。その基本コンセプトは「新規輸送サービスの創出による経営基盤の確立」、即ち、タクシー業は単なる運送事業ではなく、サービス業であることを再確認した内容となっている。具体的には、次の3点がポイントである。
(ア) 共同事業によるメリット追求、サービスの充実と効率化
(イ) 飛躍に向けた新規企業の展開~新しい輸送サービスの創出、資材の共同購入によるコスト削減、夜間・休日の共同配車システムの研究
(ウ) 既存業務の見直しと効率化の推進~タクシーペイの確保への取り組み、チケット売上拡大キャンペーンの実施、組合金融事業への取り組み
  同組合でも、組合員から賦課金を徴収せず、タクシーチケットの利用量に比例して手数料を徴収し、組合の運営費を調達しているが、財政が組合活動の限界となっている。
   また、今後規制緩和により新規参入者が出てくれば、組合員相互間の競争が激化し、組合員同士の結束が崩れるおそれもある。

② 医薬品販売業
   医薬品販売業に関する規制緩和としては、1997年4月の一般医薬品の再販売価格維持制度の廃止、1998年12月の市販薬の広告基準の緩和、1999年4月一部の医薬品(人体に対する作用が比較的緩やかで、薬剤師による説明の必要がない医薬品)のコンビニ、スーパー等での販売解禁があげられる。
   この一連の規制緩和が、大店法の規制緩和による大型店の出店とあいまって、大型店の出店増加 → 競争激化 → 売上低迷・採算悪化 → 経営意欲の減退・後継者の不在 → 廃業の増加、と言うように、従来からの薬局・薬店の経営は厳しくなっている。
   このような競争の激化により、組合員の中には自主廃業や倒産なども一部にはあるが、組合本部への仕入れ集中率(現状20%程度)の向上により、売上が増加傾向を示している。この点で、従来の商慣行を無くし、規制緩和を進展させたことが、組合組織の飛躍につながっている。
   医薬品販売業の組合が、規制緩和に対して実施・計画している対応策としては、次の点が上げられる。
(ア) 既存組合加盟店の標準店化促進(組合加盟店の力を結集するための商品仕入れ、宣伝等の共同実施など)
(イ) 直営店事業の推進(新業態開発、加盟店従業員や組合本部職員の店頭教育の場、情報発信基地などとして)
(ウ) 情報ネットワークの構築(POS=販売時点情報管理システムの全店普及、組合本部と加盟店のオンライン化など)
(エ) 全国店舗網をカバーする物流体制の構築
(オ) 組合員に対する教育指導の強化(高齢化が進展する中での商品勉強会、組合本部の事業戦略や標準店化政策の説明など)
(カ) 集中MD(マーチャンダイジング = 商品発注から販売まですべて責任を負うシステム)政策の採用(本部の一括購入による仕入れ価格の引き下げなど)
(キ) PB(プライベート・ブランド)商品の開発(組合加盟店の非加盟店からの差別化のため)

③ 米穀販売業
   1995年11月の新食糧法の施行により、米穀流通の担い手である出荷取り扱い業者・販売業者(卸・小売)には、従来の指定・許可制から一定の要件さえ満たせば誰でも自由に参入できる登録制に規制緩和が行われた。
   この規制緩和により、卸売り業者数は1.3倍、小売販売所数はスーパー・コンビニの新規参入を主因として、2倍に増えた。このため、流通秩序が混乱しており、既存の卸・小売、農協組織が経営危機に陥っている。
   米穀専門店は、後継者不足と売上・利益の確保困難による転廃業者の増加等から、組合員数は約3割減少した。
   この規制緩和に対して組合が実施・計画した対応策としては、次の点が上げられる。
(ア) 共同購入組織「米穀流通協議会」の設立(バイイングパワー強化による米の安定的確保や仕入れコストの削減、販売先の拡大などを目指す組織)
(イ) 組合員の業態転換の促進(総合食品店や食材卸、コンビニ等への業態転換を組合が応援)
(ウ) 情報交換の場作り(米穀業界の動向や提案型営業の方法について)

(4)異業種における業界組合事例から読み取れること
(ア) 規制緩和・消費者行動の変化から、業界として組合員が経営を続けられるような新商品・新技術の開発と情報提供、経営に役立つ情報の提供等を実施している。特に新たなビジネスチャンスを業界として拡大している点が注目される。
(イ) 組合活動の前提として、組合に経営を依存するのではなく、自らメリットを取るという、組合員の積極的な意識改革を促進している。
(ウ) 組合収入の減少に対応するため、コスト削減等財政の安定に努力している。
(エ) 組合事業の魅力度を高め、組合離れを防止する努力を続けている。
(オ) 共同購入・共同サービス提供を実施している。
(カ) ある程度組合員間の競争激化は避けられないが、最大公約数的なメリットの追求は組合で行う。

(5)全理連の運営
  このような他業種の例も見ながら、今後組合員数の減少を免れない全理連の運営のあり方は次の通りである。

① 財政運営
(ア)一般会計
   一般会計は、(第1シナリオ)、(第2シナリオ)とも組合員数の減少に伴い、各費目で削減努力をすることで対応可能である。ただし、(第2シナリオ)の場合は、人件費・物件費等の抜本的見直しが必要である。
(イ) 共済会計
   共済会計については収支に与える影響が大きい上に、現状では予想が難しい部分があり、別途共済プロジェクトで検討する。
   方向性としては、団体生命共済を中心とした新規共済の導入、若年層の組合員化・共済加入促進で、収支を大幅に改善することが可能である。
(ウ) 事業会計
   組合の財政基盤強化のため、少なくとも現状収入(2.7億円)を維持する。
   新規事業(例えば旅行事業等)は21世紀ビジョンに盛り込まれているが、経営資源の配分の観点から慎重に検討すべきである。

② 高齢化対応
   現状のままでは、5年後には組合員の平均年齢が60.6歳になる。
(ア) 財政に与える影響
   高齢化に伴う脱退・死亡により、組合員数が減少し、連合会費収入が減少する。
   新規加入の場合の共済掛け金が、高齢化に伴い上昇し、加入しにくい制度となるおそれがある。
   その対応策として、現状、組合員は理容店経営者に限定されているが、若年層(20~30歳の層)を増加させることにより、年齢構成のバランスを改善する必要がある。これは、特に共済制度への影響が大きい。
(イ) 活動活性化に与える影響
   高齢化に伴う現状維持傾向、改革回避傾向が見られるようになる可能性が大きい。
   全体的に組合活動自体が不活発となる可能性が大きい。

③ 組合員数増加策
(ア) 新規理容師の労働市場への取り込み
  養成施設への入学者数の激減に対応するため、養成施設と連携して理容業で働く利点を喧伝し、新規理容師の労働市場への取り組みをはかる。さらに、奨学金制度等の施策を検討する。
(イ) 準組合員制度
   後継者見込み層を中心にした準組合員制度の導入を検討する。
   後継者見込み層も一定の範囲で組合の意思決定に関わることが望ましい。例えば、議決権の一部、ポスト等の供与による参画意識の高揚(例えば、組合員の権利の見直し)、次世代の業界リーダー層の育成を図る。また、最終的には、理容店の世代間移行をスムーズに行い、廃業を減少させる効果が期待できる。
(ウ) 研究団体との関係見直し
  研究団体との関係を密にし、研究団体内で組合の有用性が認識されるような施策を用意し、連携を図る。
(エ) 組合員の営業方法の見直し
  事実問題として、一部の都道府県組合レベルで、適正化規程のなごりが散見される。
 組合が組合員を制約することは合理的な範囲内で必要であるが、そのために、やる気のある組合員が脱退する状態を作り出すのは、得策ではない。
   合理的な制約とそうでない制約を分け、今後の競争時代に備え、営業方法の個性化を高めて行くことが必要である。これは、消費者のニーズが大きく変化している現状では不可欠な対応である。
   産業界では経営の必然性からフレキシブル(柔軟)な方向に向かいつつあり、理容業界も方針を明確に打ち出す必要がある。まず、労働時間を含む労働条件について、法令を遵守できるような努力を続けることが必要である。
   次に、営業の柔軟性については、例えば、営業総時間には制約があってもいいが、休日の取り方、営業時間帯については、自由裁量の範囲を広めないと、柔軟で個性ある経営ができなくなり、結局、美容を含む異業種との競争に勝てない事態も起こりかねない。
   従って、営業方法については創意工夫が必要であり、組合および組合員の柔軟な対応が望まれる。

④ 全理連の業界における意義の再認識と魅力向上策
(ア) 必須機能
A.業界利益の保護
   異業種の参入、美容との垣根の低下等、自由化・規制緩和時代に即した理容業界の利益保護が何よりも重要である。同時に、各店舗に対する営業支援策を進め、各店舗の力を強固にし、組合組織の活性化を図る。
   衛生業種として、公衆衛生の確保を図り社会的信頼を高めるため、法令による衛生・消毒を遵守するとともに、理容師としての社会的責任を自覚することが業界利益を守るうえでの必須条件である。

B.共済制度の維持・発展
   組合員の生活安定のために、現状不安定になっている金融情勢に鑑み、共済制度のより一層の改善を図ることが喫緊の課題である。
   既存の共済制度を見直し、新規の共済制度も検討する。

C.商品メニューの提示・販売促進方法の啓発
   各店における売上向上に直結する商品メニュー(ヘアスタイル、付加価値メニュー)に関する情報を組合員に広く提供し、具体的な販売促進方法を啓発することにより、組合に所属するメリットを実感できるようにする。とくに、カラーリングやヘアケア、スキャルプケア、レディスシェーブ、フェイシャル等エステティック、ネイルケア等が当面の緊急課題としてあげられる。新たな商品メニュー提示方法は、リアルタイム発信が可能なホームページの他、講師を活用し、各都道府県の組合員にも早急に浸透させる体制を作る必要がある。
   商品開発・提供、販売促進のノウハウ強化のためには、メーカー、業界流通業者との連携も促進する。この点で、メーカー、卸業等から積極的な商品・サービス、販売支援等の提案をしてもらい、複数の提案の中から、全理連と全国理容総合研究所が認定する方式を採用する。併せて、商品分野によっては、幅広い企業を含む新規メンバーの参画も呼びかける。
   このような営業支援策については、受益者負担によりさらに高度な内容のものも考えられる。

(イ) その他組合の魅力
A.福利厚生施策の充実
   特に若年層を取り込むために、福利厚生に資する各種サービスを提供する(例えば、提携宿泊施設・リゾートなど)。~現行組合員制度のままでも若年層は家族としてメリットを受けられる。ただし、出来るだけコストのかからないサービス提供のため、外部業者を活用する(アウトソーシング)。また、組合員からのニーズの大きい健康相談や、各種親睦会(趣味の会)の全国組織・大会の運営等も検討する。
B.業態化支援
   今後経営を続けていくためには、多くの組合員にとって「業態化」(特徴のある店作り)が必要であり、そのための情報を提供する。業態化は理容業にとって重要な経営戦略である、固定客化にとって不可欠な経営手法であり、様々な手法がある。また、その具現化として、「店舗作り」の重要性が高まるため、低廉な価格での店舗作り提案(内外装・器具等)ができる複数の外部業者との連携も検討する。
C.安全性の確認
   施術に使用する香粧品を始めとする各種製品の安全性は、サービスの信頼性の基本となるため、全理連として、安全性の確認を行う必要がある。そのためには基本的なルールの遵守が重要であり、ルールの違反・事故の発生が企業や組織、ひいては国の信頼まで失わせることになる事例は多く起こっている。特に、理容業界については、香粧品の組み合わせによる事故の防止、各種感染症対策等、従来にないリスクが増大しており、理容業と理容店を守るためにも、リスク管理、安全性の維持が求められている。
   そのためには、全理連が様々な関連業界・機関等と連携して安全性に関するデーターや情報を得るとともに、それらを各組合および組合員に積極的に提供していく必要がある。

 

6. 提言を具体化するための方策
  本報告書の内容を迅速に具体化するためには、一定の組織的な承認を得た後、業界内に提示しながら広く意見を求め、多くの意見を集約することが必要である。そのためには、全理連の各理事から組合員に至るまで、内容を機関誌・各紙誌・ホームページ等に提示することが妥当である(注1)。
   その後、実施すべきものについては、優先順位を付けて実行に移すことが肝要である。
   理容産業21世紀ビジョンが公表されてから既に5年が経過していること、最近理容店の経営環境が激変していることに鑑みれば、これらを早急に進め、全体として美容業界や異業種からの参入組に対抗する力を付けることが不可欠であり、早急に方針を決定し、出来るところから着手することが望ましいと考える。以上の構想を実現させるには、情報戦略を推進し、組織力を高めるために、時代変化に対応できる機構のありかたについて再検討する必要がある。

 

(注1) 意見の集約方法としては、中央官庁のパブリックコメント方式のように、開示した情報に対して意見を募集し、箇条書きにしたものをホームページ等に掲載することも考えられる。

 

(参考資料)
・理容産業21世紀ビジョン推進委員会「理容産業21世紀ビジョン答申」1996年10月
・商工中金組織金融部「規制緩和が組合に与える影響と対応策」1999年10月
・菊森淳文「21世紀のサロン経営―理容・美容サロンが変わるⅡ」日刊工業新聞社、2000年11月


 

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