平成27年度生活衛生関係営業対策事業
理容業好循環促進計画
全国理容総合研究所
全 国 理 容 総 合 研 究 所
所 長 早川 幹夫(全国理容連合会副理事長)
運営委員長 寺園 洋行(全国理容連合会連常務理事)
【マーケティング部門】
チームリーダー 中谷 進(全国理容連合会理事)
委 員 山岸 民樹( 〃 )
同 東﨑 幸男( 〃 )
同 小宮山健彦(㈶全国生活衛生営業指導センター専務理事)
同 本田 千晴(全国理容連合会事務局長)
【ソリューション部門】
チームリーダー 池上 良一(全国理容連合会理事)
委 員 飛田 英雄( 〃 )
同 山口 利光( 〃 )
同 栁田 照穂(理美容教育出版株式会社代表取締役社長)
同 菊池 信彦(全国理容連合会事務局)
1.策定の趣旨
理容業好循環促進計画は、歴史と文化に培われた理容業が、将来にわたって持続可能で、そこに携わる人々に幸せを感じてもらえるような業として確立するため、目指す方向や業が発展するための理念を明確にすることを目的に策定するものである。
2.計画策定の目的
少子高齢化、後継者不足による組合員の減少、低料金チェーンの伸張による競争の激化、売り上げの低下など、理容業を取り巻く構造的な悪循環から脱却し、業界の活性化、持続的発展を後押しするため、全国理容生活衛生同業組合連合会(以下「全国理容連合会」)が理容業の特性を活かした計画を策定し、好循環構造の定着・促進を図ることとする。
3.理容業を取り巻く現状
日本の人口は、平成20年の1億2,800万人をピークに、同72年には8,700万人まで減少するという推計が出され、同26年11月には人口減少問題に対処するため、国は地方における安定した雇用創出、新しい人の流れづくり、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる、時代に合った地域づくりと安心な暮らし、地域の連携などを基本目標とした「まち、ひと、しごと創生総合戦略」を策定した。
一方、理容業界に目を転じてみると従業理容師数は、昭和50年度の26万6,000人をピークとして、平成25年度には23万4,000人まで減少した。理容施設数については昭和61年度の14万5,000軒をピークに減少傾向となり平成25年度に12万8,000軒となった。全国理容連合会では「法令順守・社会参加」「営業支援」「後継者育成」の3つの基本理念のもと、理容師の減少と組合員の高齢化(平均年齢:平成17年度=56.8歳→同25年度=63.8歳)に対応するため、生産性の向上、経営安定化・持続的発展、社会的信頼の構築に資する各種の事業推進に取り組んでいる。
昨年6月に政府が閣議決定した規制改革実施計画で、理美容業の在り方に係る規制の見直しの中で、理容及び美容の範囲、理容所及び美容所の重複開設、両資格の取得の容易化、国家試験及び養成施設の教育内容について検討・措置が行われることとなった。理容・美容の規制緩和の動きは昭和36年11月に内閣総理大臣の諮問機関として設置された臨時行政調査会に遡り、同調査会が同38年に行った最終報告では、法律で無免許営業が禁止された理容師・美容師の国家資格(業務独占)を「名称独占」に緩和せよというものであったが、以後も平成15年11月の規制改革特区提案に、カット専門店における理容師美容師混在の容認、カット専門店について理容所、美容所の双方で届出を行うことの容認等が出されたが、いずれの問題についても国民生活を守る現行法の順守という考えのもと退けられた。理容、美容の違いは、利用者の目線では理解しにくいかもしれないが、公衆衛生を確保するという利用者擁護と、それを確保するために必要不可欠な業務独占の維持は守られなければならない。
4.これまでの取り組み
全国理容連合会では、平成8年10月に理容産業21世紀ビジョンを策定し、理容業を「限りなく快適さと優美さを創造し、消費者から信頼される21世紀産業」と位置づけ、組合の指導のもと個々の店は高度化を図るよう示唆した。以後、ビジョンで示された基本構想、基本計画、実施計画に沿って計画が実行に移されてきた。
一方で、少子高齢化、職業に対する偏見などから理容師養成施設入学者の激減、それに伴う新規理容師の減少といった厳しい状況のもと、現状維持すら困難になりつつある理容業が、今後、未来に向かって勝ち残っていくためには、サロン利用者のニーズに的確に応え、厳しい経営環境に対応し得る競争力を身につけなければならず、そのためには、業界全体での取り組みと個店の努力により業態化の推進、技術・経営の見直し、消費者PRの推進を図るとともに、その原動力となる意識の改革が求められた。その推進のための機関として平成13年10月、全国理容総合研究所が全国理容連合会のシンクタンクとして設立され、以後、理容業が繁栄するために必要な基礎的、専門的研究を通して、長期にわたる業界全体の戦略についての提言を行った。
平成18年には、「法令順守・社会参加」「営業支援」「後継者育成」の3つの基本理念を掲げ、コンプライアンスを重視し、子どもから高齢者まで安全で安心して暮らせる福祉社会の構築に向けて、人々により密着した活動の推進や、各種の営業支援メニューの提案と魅力ある経営を支援する取組み、未来ある理容業の長期的安定をめざし、次代を担う理容師養成を進めた。
以降、現在に至るまで具体的には下記のとおり諸事業を継続展開している。
① 地域における理容サロンの強みを活かし、行政と連携したゲートキーパー宣言事業(自殺防止対策協力事業)
② 大規模災害発生時における理容サービス業務の提供
③ 国が進める地球温暖化対策に歩調を合わせたクールビズ・ヘアスタイル、室温28℃理容店をはじめとする理容業からの提案
④ 理容ボランティアの日(毎年9月の第2月曜日)の全国一斉実施、訪問福祉理容に関する厚生労働省老健局課長通知(平成25年12月25日発出)や全国理美容NPO法人の有効活用による訪問福祉理容サービス事業の全国システム化推進などの社会貢献事業
⑤ 理容師が行う安心・安全、清潔・快適なエステティック「BBエステティック」、日本の理容本来の高度なサービスを明確化し利用者に高い満足度を提供するための「BBマイスター制度」をはじめとする利用者のニーズを捉えた営業メニュー拡大のための営業支援事業
⑥ 理容業の正しい姿や職業としての魅力や可能性を伝え、若者の理容業への参入を促進するための「理容体験学習課外授業プログラム」の実施や、理容体験・参加型イベント「バーバー・キッズランド」の開催、子ども層の需要喚起のための「キッズ三ツ星サロン制度」の全国展開など後継者育成事業
5.現況を踏まえた課題
(1)早急に取り組むべき課題
利用者にとってサロン選びの基準は、利用しやすい場所にあり、清潔で、接客態度がよく、技術が優れていて気に入ったスタイルにしてくれ、手ごろな料金であることにあり、経営者はそのニーズに応えることが求められる。理容業界としては将来を見据えながら、いかなる状況下においても繁盛店として耐え得るような個店の経営基盤の強化に注力しなければならない。
① 将来を見据えたシナリオの検討
理容、美容の垣根は今後さらに低くなることが想定されるが、この問題とややもすると規制改革の俎上で論じられる業務独占廃止論とはまったく別問題であり、公衆衛生の維持・向上のための業務独占堅持は国民世論から必要不可欠な要素として理解が得られる。まずは理容店経営や業界を安定・発展させることに力を注ぐとともに、一方では行政、関係団体等と密接な連携をとりながら、全国の理容店の営業力を上げる方策を急ぐ必要がある。
② 厳しい経営環境に対応した業界の構築
利用者ニーズに的確に応え、厳しい経営環境に対応し得る業界を構築するため、連合会および組合は個々の店の経営改善をめざし、次のような情報提供を行う。
・業態化経営の推進
グローバル化が進む中、いかなる競争下に至っても柔軟に対応できる業態化を推進する。得意技術に特化した専門店化や特色を打ち出した店舗経営を推進する。
・理容技術、経営の見直し
連合会が開発した営業支援メニュー(エステ、シェービング、シャンプー、カット等再構築したメニュー)の活用により増収につなげるとともに、女性向けメニューの提案を積極的に行う。
・理容をアピールするための戦略的展開
利用者に対する理容業の良さをアピールするための各店でのアプローチをはじめ、組合、支部による地域と一体となったイベントなどを開催する。さらに特徴あるメニュー展開を行うアンテナ店を作り情報の発信を行う。
③ 「意識改革」と「業態化」を業界内に徹底する
異業種の参入をも踏まえ、組合事業の自己変革が求められている中、従来の調整型、規制型から新たに提案型、営業支援型、福利厚生型への変革。また組合員参画事業、必要に応じた機構改革、行政との協働型へのシフトを行う。同時に、各組合の研修体制の拡充を行い、連合会と連携し、組合員のための組織づくりをめざして、講師育成等により意識改革と業態化推進のための各組合での研修体制の拡充を図る。
④ 組織への若手理容師の取り込みによる組織力強化
組合員の高齢化とともに組合員の減少が深刻になっている中、組織力を維持・強化するため、次のような対策を講じる。
・ 組合加入および組合の積極的活用を促す厚生労働省健康局課長通知(平成23年7月26日発出、同24年7月31日発出、同25年7月31日発出)に基づき、関係機関との連携による新規開設者および組合脱退者に対する積極的な組合加入促進活動を展開する。
・ 各組合においては組織運営について、現在は組合員ではないが、その後継者層が参画できる組織づくりを進め、若者の意見を反映できる場を設けるとともに、若手理容師の一体感を高めるために、各種競技大会等の組合行事に積極的に参加を呼びかける。その効果を高めるため、年齢を問わず理容師全員参加型の事業展開をめざす。
(2)長期的な課題
① 将来像は「髪から始まるトータルファッション」の専門家をめざす
ヘアスタイルづくり、シェービング、シャンプーはもとより、エステティック、ヘッドスパなどを中心とした美と癒しのトータルファッションをめざす。
② 業務独占堅持の認識を高める
社会に理容師の業務独占は当たり前と認識させる高度な技術と衛生意識の高揚に努め、業務独占堅持のための行動をとることが基本であるということを認識する必要がある。業務独占が堅持できなくなった場合、大手資本の参入や無資格者による類似行為が乱立し、衛生・安全が確保できず、利用者の信頼を失う可能性が大きい。
③ 業務独占維持は衛生・安全の確保に必要不可欠事項
業務独占の維持は業界のエゴではなく、公衆衛生を確保するためには必要不可欠なものという理論をしっかりと固める必要がある。国民の安心・安全が一番重要であり、人々の生活の中で抱えるリスクを適切に訴え、正しく認識してもらうことが重要である。理容師は公衆衛生を目的とした法的根拠に基づく専門知識を有する国家資格であり、連合会や組合は公共性の高い組織であることを社会に認識してもらうことが重要である。
④ 「若く、美しく、健康で」という人々のニーズに応える理容師へ
業界を取り巻く客観状況を読みつつ、業務独占を堅持した上での人々の「総合美」に対する要望に応える業態化を急ぐ必要がある。これは次のような業界内の意識の変化によるものである。
・ 理容業界全体の利益と発展を構想すると、業務範囲は時代の要求に応えて広い方が良い。また今後の業界を担う若い理容師、後継者層にとっても活動の場が広い方が良い。
・ 社会のニーズを捉え、経営に注力する経営者もメニューの拡大を望んでいる。
・ 理容に対する社会ニーズも多様化を求める方向に変化している。
⑤ 総合美・トータルファッションづくりを先取りする構想の立案
構想の大まかなイメージは、次のようになる。
・ 従来の理容業、美容業の枠にとらわれない、エステ業を含む総合的なトータルファッション、ヒューマンケアビジネスの提唱。(利用者、生活者の立場に立った業界づくり)
・ 理容師、美容師養成施設の教育の内容を見直し充実強化を図る。
・ エステティック等の非規制資格を組み入れる。
6.課題に対する対応方針
(1)利用者の理容に対する認識
現状分析として、理容に対する利用者の認識を分析すると、次のように分類される。
① 生活必需型サービス
・ 清潔さ、利便性=刈って、剃って、洗う(総合調髪)
・ 技術の均一化、安心感、信頼=いつもの人が、いつものようにしてくれる(家族経営)、自分のことを分かって くれている、慣れている(高い固定客率)
② 個別対応型サービス
・ 美しく健康でありたい、生活の質の向上(デザイン性、リラクゼーション)=総合調髪を基本に、プラス方式(カラーやパーマなど付加価値の高いオプションを加える)、もしくはチョイス方式(例えば、総合調髪のシェービングが不要な場合にヘッドスパやフェイシャルなどに組み換え可能)
・ 機能性、時間短縮、安価(カットオンリー・サロン)=金銭的余裕がない、時間に追われている、物理的に長さが短ければいい
①は伝統的な理容店像であり、②が業態化に進展しつつあるサロン形態といえる。理容業は約1時間、お客さまと対面して技術提供を行うという特性から、時間と空間を売る仕事だと言われるが、癒しや寛ぎといった高い付加価値を付与したのが②の前者であり、合理化に徹しているのが②の後者である。
近年、レディスシェービングをきっかけに女性客が理容に目を向けてきているが、その割合は全国理容連合会の調査でも1割程度となっている。しかし利用者からは、仕事が丁寧であり、価格も美容室やエステサロンに比べて適正で「また利用してみたい」という声が聞かれる一方、「男性と並んで施術を受けたくない」「店づくりが男性向けになっていて入りにくい」など、利用しにくい面も指摘されている。子ども客についても、ホームバーバーの普及や母親に連れられての美容室利用などにより理容店に来る子ども客が減少している。将来の中核をなす客層である子ども客の増加策は、理容店の将来設計にも大きく影響を及ぼすものであり、その対応が急務となっている一方で、子どもが騒ぎ迷惑になるからと、理容店に連れて行きづらいと考えている保護者は多く、理容店側と顧客側のギャップを埋める必要性も指摘されている。いずれにしても潜在需要があることは事実であり、女性客、子ども客の掘り起こしは大きなテーマである。
(2)理容店メニューの方向性
利用者の認識を踏まえて、メニューの方向性を例示すると、次のようになる。
① 総合調髪=セット料金のため、利用者にとって便利な反面、選択の余地がない。
② 新総合調髪=利用者の希望に合わせて、シェービングやシャンプーの時間を短くした分、マッサージを長めに行うなど個々のサービス時間の割合を変化させたり、またはシェービングが不要な場合にヘッドスパやフェイシャルなどに組み合えられるよう選択の幅を広げる。(コース料金)
③ 分割料金=必要な種目の組み合わせが可能となる。
④ 予約制(予約優先制)=アイドリングタイムを減らし、営業の効率化につながる。
⑤ 女性向けメニュー、子ども向けメニュー=潜在需要の開拓
⑥ 滞在型=高齢者が病院やゲームセンターなどに集まる状況から。人が集まるとニーズが生まれる。
⑦ 髪を切らない理容店=専門店化(ヘッドスパ、エステシェービング、グルーミングなどカット以外の種目に特化)
この他、利用者の利便性を高めるため、立地条件に応じた営業時間や休日のあり方、顧客ターゲットをしぼったタイムサービスや○○デーなど、営業方法についても工夫が必要となる。
なお、料金については、長い間変わっていないが、このデフレ下で他の物価が下落しており、据え置かれている理容料金に対して利用者は高く感じている側面もあることを認識しなければならない。しかし、料金は一度下げてしまうと、よほどの理由がない限り値上げに対する理解は得られない。業態化は料金競争ではなくサービスの本質から見直すこと、料金以上の価値観を利用者に実感させることが、企業努力による利益の還元という視点に立って進められなければならない。
7.今後の取り組むべき課題
以上を踏まえ、今後の業態開発推進のための重点課題は次の項目とするが、具体的な内容については、さらに研究開発を行い、蓄積した成功事例を取り組もうとする組合員に情報提供できるシステムを構築する。
(1)女性理容師の養成と活用
きめ細やかな感性としなやかな女性活力の活用、男性にない発想力の取り込み
→ 例:女性客の獲得、メニュー(エステ、リラクゼーションなど)の拡大に大役を担う。
(2)シルバー理容師の経営対策
長年の経験を活かした営業方法
→ 例:(釣り、ゴルフ、絵画・写真など)趣味を活かした店創りは、情報発信、共有の場として街のコミュニティ的役割を果たす。
(3)円滑なる事業継承
親子の共存、独立の援助、員外店への人材流出防止
→ 例:(店舗内もしくはフロアごとに)親子の施術スペースを棲み分ける2世帯住宅型店舗や、老健施設などとの委託業務を活用して分業化を構想する。
(4)営業ツール、メニュー内容の見直しと開発
(痛みや不快感を与えない)利用者本位の技術提供のための対応
→ 例:顧客管理カルテ、エステシェービングに適した器具などの開発で品質を高める。器具メーカー、卸商、ディーラーなどと協力により商品開発を行う。
(5)子ども向けメニューの開発
潜在需要の掘り起こし、理容師後継者の創出
→ 例:将来の顧客となる子ども客を引き付けると同時に、理容が魅力ある職業であることをアピールし、「理容師=憧れの仕事=将来の後継者」という図式を作る。
8.将来につながる業界づくり
21世紀型の新しい連合会のあり方や理容師像づくりをめざした構想実現に向け、業界内外に多くの理解者を得ながら、メニューの多様化等、また「髪から始まるトータルファッションづくり」のための理美容間の新しい構築をめざすとともに幅広い理容店の経営基盤づくりをめざして「サロン利用者のニーズに応える」措置を進めていくことが大切である。