ダブルライセンスによる自店の実践
佐久間博(福井県組合)
当店は大正13年(1924年)創業の老舗理容店として先々代の理髪館から数え昨年、創業97周年を迎えることができました。
店名に21を付けましたのは、「理容師・美容師のダブルライセンスを持ち2つの施術が1つのサロンでできる」また、「サロンの発展とともに21世紀を担うスタッフを育成していく!」という2つの意味が込めています。
今回、「ダブルライセンスによる自店の実践」と題して思いをまとめ、未来に向けて理容業界が発展していくことを願っています。
1.経営理念
経営理念は、「最も強いものが生き残るのではない賢いものが残るのではない、変化して進化していくものが残り、魅力のあるところにしかお客様は行かない」です。
経営方針は、お店を存続させるために経営環境の変化に即応しながら、常に新たな取組みを考え積極的に様々なことにチャレンジすることです。
また、地域の理容業界の担い手を育成し地域を活性化させることです。
➀当店の何を個性にして売っていくのか。
②コンセプトとお店のこだわりは何か。
➂働き方改革、人材育成、待遇の改善は。
これらの課題に対し取組んでいます。
2.ロンドン、パリ研修
一昨年にロンドンのサッスーン、サンリッツ、トニー&ガイ、各スクール訪問とサロン研修に行きました。
息子がお世話になった留学先のスクールの代表とカットの考え方やカラー理論の対談が出来て、若い頃の欧州研修を思い出しました。
ロンドンのバーバーは活気があり、紳士文化の伝統ある姿に自店の創業100年を目の前にした老舗店らしい重みを持たせたリニューアルへの夢が膨らみました。
パリのマルシェ(一番人気サロン)でシェービング研修も良い経験でした。
ヨーロッパのお客様はシャンプーリンス、シェービング道具やフェイシャルグッズ等はサロンでお買い求めされるのが殆どらしく、プロのお店として信頼を得ていることが素晴らしい事だと学ばせてもらいました。
パリのマルシェ店 ロンドン店内コーナー |
3.リフォームの構想
お店の顔である外観は、お客様がこのサロンでヘアーチェンジするイメージを持ってもらえるか大切な要素であると再認識しました。
私の地域では、今後インバウンド需要等で県外、国内外からの交流人口・定住人口の増加が見込まれます。
そこで、創業100年の老舗店らしい重みを持たせて、国内外の観光客など新たなお客様もご来店しやすい外観にリニューアルします。
内観のイメージアップを図るべく、パリマルシェ(一番人気サロン)で使用されていた床フローリングのデザイン張りを見た時の感動が忘れられず、日本ではないコーディネートを表現してみます。
そして、カウンターのリニューアルを行い、当店が商店街(まちなか)の「まちなかの観光インフォメーション」の機能を果たせるよう観光案内パンフレット等を置けるラックを設置し当地の観光情報等を発信して居心地良くくつろいでいただける客待ちにします。
4.当店の強み
➀当店は商店街の中にあり、3カ所のホテルから500メートル圏内に位置しており、多くの観光客が立ち寄れる好位置で、店前に駐車場が10
台分有り利便性を備えています。
➁ご家族で来店される方も多く、ファミリーの感覚で成人式や結婚式のお支度、婚活相談も受けるなどアットホームな雰囲気です。
➂コンテストを通じて技術を追求し続けてきた経緯を活かして、カット、セット、着付け技術指導を本店と支店スタッフは合同レッスン日を設
けて日々鍛錬を重ね、確かな技術力が備わってきています。
④スキャルプマッサージ(頭皮、毛穴の洗浄が目的)をお客様に行い、スペシャルコース希望のお客様には料金アップで行っています。
⑤アレルギー体質や肌荒れの方、婚礼シェービングには、シェーブマイスターの資格を有するものが担当し、研究を重ねた沖縄の離島・北大東
島の月桃から取り出した乳液でのシェービングは大好評です。
⑥個室のマッサージベットで、疲れのたまっている方、婚礼前の肌のお手入れ、肥満が気になる方に有資格者がリンパマッサージを施術してい
ます。
⑦高齢者や車椅子のお客様の対応として、障害者用駐車場区画の設置、玄関口のバリアフリー化(段差解消、広く開放できる、簡易スロープ
設置、手摺り)を整備しました。
⑧「理容師資格」と「美容師資格」のダブルライセンスを有する理美容総合サロンです。
強みとは、そのお客様だけしか感じ取れないもの(個々のお客様にあったサービス)が、唯一喜んで頂けるサービスだと考えます。
5.地域の老舗店として共存共栄
私が商店街会長をさせていただいている平成通りは、季節に応じた花々を150余りのプランターに定植して一年間通し60数件ある商店とお家の玄関前に並べて設置して、フラワーロードは30数年続いています。
地域に住む人、訪ずれる人、生活者の心地良い空間づくりはお店の環境づくりと似ていると思います。
老舗店舗として長年営業してきて、地域のコミュニティーの場、集いの場として商店街との共存共栄を大切にしてきました。
25年前に成人式のお仕度(ヘアー、着付け、メイク)をさせて頂いたお客様の娘さんが、大きくなられて成人式や結婚式の際にお仕度をさせていただいたりします。
ご家族3代に渡りご来店頂いているお客様に支えられていることが、本当ありがたいと感謝しています。
6.理容業界の現状と技術の強み
理容店数は減少している要因は、後継者がいなくて廃業が増えてきたことや、専門学校生徒の理容科への入学者が少ないのをみても人材不足が大きいといえます。
美容店は増加傾向のようですが、日本は理容と美容の法的垣根があり、世界の理容、美容と比較するとライセンスが違うことからか、別の職業になって来ました。
しかし、日本も美容院に男性が行き、理容院に女性が行く時代になり、お客様にとってお店の雰囲気や技術的にも理容と美容は区別がなくなってきています。
私は、理容店の3代目跡取りとして育ち、将来ヘアーデザイナーとして理美容の技術を習得したいと思いました。
両方のライセンスと技術を習得し、理容店を継ぐと同時に美容室を併設しました。
しかし、理容の強みは「女性シェービング」が話題になり女性客が急増し、我が業界のヒットとなったのも記憶に新しいところです。
シェービング技術が売り方次第で、ヒットメニューになったという証明になりました。
レディスシェービングのタペストリーを全組合店に掲示するなど、理容組合挙げての取り組みで大変盛り上がりました。
その時のアンケートによりますと
サロンにして欲しいメニューとしては、◎フェイシャルエステをして欲しい。
サロンに何を求めるかに対しては、◎癒されたい、リフレッシュしたい。ゆっくり眠りたい。
などのお客様の声を聞くことが出来ました。
お客様にとっての魅力と価値を見出せた理容業界の成功事例になりました。
7.インバウンド対応メニュー
昨今の体験型観光のニーズが増す中、理容業界もインバウンド誘客を意識しています。
外国人が日本での体験として、日本のレベル高いと言われているシャンプー体験と外国人の方に「着付けフォト体験」で日本の文化を知ってもらえる着物を着付けて、写真を撮りお渡ししています。
特に夏場の浴衣の季節にまち歩きに浴衣レンタル着付けは評判となっています。
体験された方々の着物の写真を店内掲示することで、当地の観光の一翼も担えたらと思っております。
また、顧客満足度をアップさせるためにスタッフの接客応対は大切だと思います。
商工会議所の社外研修や組合講習等を社内勉強会でインバウンド誘客に向けたマナーや英語の実践練習をしていきます。
8.働き方改革と人材育成
「働き方改革」は政府の重要政策で日本の人口が減れば、労働力不足となります。
働き手を増やし、出生率を上昇させ、労働生産性を向上させる必要があります。
働き方改革は、営業時間が長いサービス業や「理・美容業」にも影響が生じています。
今年度より産学連携就職情報交換事業に登録させていただき、自店の数年前から導入している出勤、退社時間をずらしての交代シフト制を記載しています。
お店の将来のビジョン、経営理念、仕事内容、求める人物像、給与等の待遇面等を記載し、「理容師資格」と「美容師資格」のダブルライセンスと総合的な技術を習得してもらい、魅力ある技術者を多く輩出していきたいと思っています。
そして、お店の繁栄は働くスタッフの成長無くしてあり得なく、魅力ある技術者になると同時に、社会に貢献する職業人としての人間力を有して成長して欲しいと思います。
大抵入社の動機を聞くと、自分の髪形がいつも気になってカットやセットが子供の頃から好きだったと言われます。
自分が好きなスタイルを創ることも夢とし良いことですが、同時にお客様に感謝される仕事への喜びと責任を感じて欲しいのです。
「お客様の喜びを私の喜びとしたい」を心得として最初の面接時に伝えています。
「私の天職だ」と胸を張って言えて、誇りを持った理美容師になって欲しいものです。
9.自店のコンセプト
コンセプトを形にしてみようと、3年前に銅器のまち高岡市の企業さんにオブジェを製作してもらいました。
ハート型はブライダルや幸福を意味し、中に女のシルエットがあり、男性ヘアーはカッコ良く、女性ヘアーは美しくの意味を表しています。
To be cool and beautiful and happy.
略すと「カッコ良く、美しく、そして幸せに」をお客様に提供したいと思います。
おわりに
50年後の2070年には日本の人口が現在の「3分の2」の人口にまで急減すると予測されています。
今後、人口に依存したビジネスに明るい未来を望むほうが難しいと言われます。
人口予測は、経済成長率などの予測と比べて確立度が高く、楽観論はありません。
「理・美容業」のみならず、「個人病院」「飲食店」など、身近な存在のビジネスが、「人口減少社会」の大波を受けます。
その前提で、どう対処するかを全の業種、個々が考えを巡らせる必要があります。
令和の時代は何が起こるかわからないと言われ、気候変動による台風、地震等の災害や今回の新型コロナウイルス感染拡大と予期せぬことが起こっています。
人々が平和な日々を暮らせることが、いかに幸せかを思い知らされています。
私達の仕事は、お客様の心と身体を癒すという快適優美産業だという社会的使命感を持って次世代に繋げていきたいと思います。
また、お客様がお洒落を楽しみたい願望を叶えて差し上げるファッション業界としての一翼を担っています。
それぞれの店の目的に向かう進歩軸と流行を見つめるトレンド軸の双方を意識することが大切だと思います。
トレンドに揺れながら進歩軸を進む「振り子理論」をイメージし展開したいものです。
この振興論文でダブルライセンスの取り組みをまとめながら思うことは、将来的に「理容、美容」の垣根が法的に緩和されて、お客様に愛される理容業になっていくことを切に願うものです。