理容インバウンド対策の切り札
「ダーマプレーニング」と今後の展開について
小笠原 吉富(宮城県組合)
はじめに
全理連が平成29年度事業に組み込んだインバウンド事業、国のインバウンド政策では、外国人観光客を2020年に4,000万人に増やすという目標を立てましたが、コロナウイルスの流行により観光客の数は大幅に減少し、東京オリンピックも1年延期となってしまいました。国内の感染者も増加し、観光業や飲食業など様々な業界が大きな打撃を受けました。もちろん接触リスクの高い理容業界もその1つです。いつしかインバウンドという言葉もほとんど耳にすることはなくなりました。
今年に入り、アメリカとイギリスの大手製薬会社のワクチンが国内で承認され、医療従事者、65歳以上の高齢者と接種が進み、6月に入るとワクチンを接種した人の数は飛躍的に増加しました。菅首相(当時)は6月9日の党首討論で、10月~11月にかけて、必要な国民について全て終えることを実現したいと表明しました。ワクチンを2回接種した人が海外旅行に行ける日もそう遠くはありません。そして、外国人の入国規制もワクチン接種が進んだ国から徐々に緩和されるでしょう。
一方で、大都市でも観光地でもなく、外国人観光客とは無縁の地で営業している私は、アフターコロナに向けて新たな癒しメニューを考えていました。そして、何か参考になるものはないかとインターネットで検索しているうちにある興味深いワードを見つけたのです。
「台湾式シャンプー」をきっかけに
シャンプーについていろいろ調べていたら、「日本人観光客に人気の台湾式シャンプー」という記事を見つけました。台湾式シャンプーについて調べてみると、台湾の美容室で座ったまま行うシャンプーで、水とシャンプーを混ぜ合わせた液体を乾いた状態の髪に直接つけて頭上で泡を作りながらシャンプーをしていき、泡を取り除いてから流し台に移動するときに髪の毛をピーンと立てて泡を切る、と書いてあります。シャンプー中に頭皮マッサージをしたり、首や肩をマッサージするのでとても気持ちいいとのことです。ガイドブックにも紹介されたり、ユーチューブやSNSには台湾シャンプーの動画や写真がたくさんアップされています。日本の美容室と違い座ったままシャンプーするのと、最後に髪を立てたり、様々な形を作った写真はとてもSNS映えします。台湾では週に1、2回シャンプーをしに来る人も多いそうです。店には日本語表記のメニューもあり、言葉がわからなくてもある程度伝わるようです。また、別のサイトには台湾シャンプーをしてもらうときに役立つ中国語が紹介されています。
多くの観光客がシャンプーを体験しに訪れることに見ていてとても興味をそそられます。台湾式シャンプーのように日本の理容室に外国人観光客を呼び込むには、自分の国の理容室にないもの、やり方が違う、とても気持ちいいなど、実際に行って体験したいと思わせる要素が必要と考えます。日本の理容技術で外国の人に興味を持ってもらえるものは何かないか、私は再びインターネットで世界の理容や、理容に関する情報を調べてみました。すると、これは理容のインバウンド対策に大きな影響を与えるのではないかと思うような記事を見つけたのです。
海外で流行している女性のお顔剃り
海外の理容室の動画や画像を見ると、カットやシェービングをしているのは皆男性です。理容室はまさに男性の身だしなみを整える寛ぎの場です。日本の理容室のように女性がお顔剃りをしているようなものは全くありません。そうしていろいろな動画やサイトを調べているうちにある記事に目が止まりました。
「海外で流行の産毛ケア、ダーマプレーニング」
今最も注目の美容法とあり、医療用メスやツールを使って皮膚の表面を優しくこすって顔の産毛や古い角質を取り除く技術、と書いてあります。2015年頃からアメリカで紹介され、現在欧米を中心に海外で話題になっている美容法。
これってそれよりずっと前からある日本のレディースシェービングとほぼ同じではないのか、さらにダーマプレーニングのメリットが次のように書いてあります。
(1)産毛と古い角質を取り除きなめらかな肌に、定期的に繰り返すことで弾力が生まれ柔らかな肌質に。
(2)皮脂が毛穴に詰まり、雑菌が繁殖してニキビができます。その雑菌を毛穴に誘導する産毛を剃ることでニキビができにくくなります。
(3)産毛を剃ることでファンデーションが均一に伸び、メイクのりや持ちが良くなります。
(4)産毛を剃ることでくすみが改善し、透明感のある肌になります。
ほぼお顔剃りと同じです。ダーマプレーニングに関する記事は日付を見ると今年のものが多く、まさに今流行している美容法です。
これは、理容のインバウンド対策だけでなく、日本のインバウンド促進のツールにもなるのではないでしょうか。日本の女性は理容室で産毛のお手入れをしている、これは外国人の女性にとても興味深く映ると思います。
では、日本のレディースシェービングをどのように発信したらいいのか私なりに考えてみました。
(1)お店から動画、SNSで発信
理容室からレディースシェービングを発信したいとなると、当然英語表記になります。ただ、レディースシェービングという言葉はほとんど使われていません。理容室のシェービングは基本男性です。ダーマプレーニングは理容師ではなく、美容皮膚科、医療エステ店で医療用メスを使って施術されているのです。♯Ladiesshavingより♯Dermaplaningの方がより多くの人の目に止まると思います。
(2)在日外国人の方に発信してもらう
全理連が主体となり、日本でメディア関係の仕事をしている方や、日本について海外に発信している外国人女性の方を招待してレディースシェービングを体験してもらいます。そして、シェービングをした感想や、日本では理容室で女性もシェービングをしていること、ダーマプレーニングは2015年に紹介されたが、日本では約300年ほど前から芸者さんが顔の産毛を剃っていたことなどを発信してもらうのです。それを見た多くの方が日本を訪れたらシェービングを体験したいと思うのではないでしょうか。
外国人観光客の受け入れ体制を構築する
全理連を中心にダーマプレーニングに対する情報を集積して、各組合で講習会を開きます。そして、ダーマプレーニングのステッカー、日本語と英語表記のポスターとパンフレット、英語での接客マニュアルを組合員に配布します。全国の組合員の店にポスターを貼ればおのずと外国人の目に止まります。
また、なかにはうちには外国人のお客さんは来ないからと関心を持たない人もいると思います。そこで、ポスターやパンフレットに海外でも多くの女性がお顔剃りをしていることを表記して、外国人だけでなく普段来店されるお客さんにも見てもらえるようなものにします。
ダーマプレーニングが理容業界にもたらすもの
日本への旅行の目的の1つに理容室でのダーマプレーニング(レディースシェービング)が定着すれば、さらに外国人のお客さんが増えるでしょう。それがメディアで紹介されることにより、お顔剃りの良さが再認識されて女性のお顔剃りの客さんが増えることにつながります。そうすれば理容業界全体のプラスになるのです。
さらに、日本のシェービング技術が海外サロンの目に止まり、シェービングで海外進出したり、著名人や芸能人のシェービングをする人が現れるかもしれません。ダーマプレーニングの流行は、日本の理容業界に大きな影響と可能性をもたらすのではないでしょうか。
おわりに
インバウンド対策なんてうちは必要ないと思う組合員の方も多いと思います。コロナが流行する以前、日本政策金融公庫が2019年9月17日に発表した「インバウンド対応に関する調査」では、理容業の事業者の30%が外国人観光客に向けた取組みを実施していると回答し、「必要と感じない」と回答した事業者は70%に達したそうです。確かに、観光客の来ない地域の人にとっては関心がないのも当然です。それが理容のインバウンド対策の盛り上がりに欠ける点です。
ただ、台湾式シャンプーのようにレディースシェービングは大きなビジネスチャンスを秘めています。台湾式シャンプーは観光客だけでなく、台湾の女性もシャンプーを目的に来店しているのです。つまり、レディースシェービングは、外国人観光客だけでなく、欧米の女性に流行していることを通してシェービングの効果をアピールし、女性のシェービングのお客さんを増やす狙いもあるのです。そうすることで多くの組合員に参加してもらうのです。
今後コロナが収まり、再び多くの外国人が訪れるでしょう。そして、多くの外国人女性の方に理容室でレディースシェービングを体験してもらうことで様々な波及効果をもたらし、理容業界が活性化していくことを期待するのです。