サロンからのSDGs
篠田哲次(東京都組合)
◇◇◇ 目 次 ◇◇◇
1序論
2本論
3-1国内メーカーのチャレンジ
3-2使用済みヘアカラーのリサイクル活動
3-3緑のカーテンの活用
3-4バイオプラスチックへの期待
4まとめとして
地球温暖化、クリーンエネルギーへの推進、プラスチックにまみれた海などの環境問題が身近に感じられます。ストローが刺さったウミガメ、廃棄されたプラスチックごみの膨大な量や、その後海に流れて切断を繰り返し細かくされたマイクロプラスチック問題、世界の異常な気候変動と二酸化炭素(Co2)増加と排出の先進国など。自分事として、環境問題に対して何ができるのか? を痛感します。大量生産と大量消費、それに伴うゴミの肥大化に対して、不幸で衝撃的な事件がありました。2013年バングラディッシュ、ラナプラザビルでの崩壊事故。1131名を超える方々が犠牲となり、負傷者の数は2550名以上(2015年統計・バングラディッシュ政府発表)その多くはこのビル内で働く十代から二十代の若い女性です。彼女らは主に欧米資本の大手企業の洋服の製造ラインに勤務していました。名前を列挙すれば誰もが知っている世界的なメーカーやブランドが含まれていました。工場内の劣悪なシステムや労働環境の安全確保に積極的ではない事、政情不安、資格を持ったエンジニア不足など多くの問題がありました。事故後に話題となったエシカルファッション、環境に負担をかけない素材と生産方法、適切な労働での生産、生産地と生産者に負担がないよう、消費者が良識で判断した商品群が誕生しました。オーガニックコットンを使用した服や、生産者との公正な取引で作られたフェアトレードの服がその代表格です。理容業からの環境問題では、OMC台湾全国大会において、日本からの脱プラスチックを呼びかけ、多くの同業の方々が賛同しました。2022年4月施行の「プラスチック資源循環促進法(ぷら新法)」、2030年までの実現を目指す国連発表のSDGsなど世界各国が環境に注視しています。理容業は衛生産業ですので、今後は特に環境に配慮した活動が必要と感じます。
本論
1国内メーカーのチャレンジ
脱プラスチック宣言と同時に、理美容国内メーカーも動き出しました。理美容専用ハサミメーカー、(株)ヒカリは、これまで専用ケースは、時計やブレスレットなども保管できるプラスチック製容器を採用していました。外側から商品を確認できることや、安全性も充分クリアしていることなど、メーカーのセンスを感じられるケースです。しかし昨年度プラスチックごみの問題に着目した対応として独自に取り組み、それぞれの商品サイズに合わせた強化紙製のケースに商品を納めてサロンに提供しています。文字どおりの脱プラスチックへの対応です。この事案のように国内の他の理美容ハサミメーカーも、ウレタン廃止を含め、プラスチックを使用しない方向へと順次移り変わることを期待しています。
お顔剃りのレザーを販売しているコモード社(千葉県)は(株)ヒカリと同様、強化紙製ケースで販売しています。この2社は商品の使用方法や普段の手入れの仕方のレクチャーについて、セミナーを開催して参加者に伝え、修繕に対しても共に重点を置いて活動しています。ヒカリ製作所は国内だけでなく海外にも代理店が設置されていますが、韓国には砥ぎ専用のスタッフがいます。コモード社のレザーは、長年の使用で消耗されるハンドル部分は取り換え可能で、本体はいつまでも使用出来る商品となっています。この2社から感じられる事は、商品を長年に亘って使用出来る事です。これこそが日本技術であると感じます。例えば同じく国内で有名な南部鉄器などは、適切な使用方法としっかりした手入れで、100年以上前に製造した商品でも充分に使用できます。ゴミを減らすためのキーワードの3R、リユース、リデュース、リサイクルにリペア(修理)のRを加える事の大切さを感じます。安価な商品を頻繁に買い替え廃棄することにより、その後大量のゴミとなうよりも、良い商品を大切に長く使用する事が、ゴミ減量化にも直接役立ちます。資源が少ない日本は、大量生産と大量消費を見直す時期と感じます。
2使用済みヘアカラーのリサイクル活動
1999年頃、全国各地でサロンが使用するヘアカラーチューブのリサイクル活動が始まりました。産業廃棄物リサイクル事業者の方々のサポートと理美容サロンとの活動で、使用済みカラーチューブをリサイクル事業の会社に買い取ってもらう活動です。捨てればゴミですが、しっかり最後まで使用して集めれば、使用済みカラーチューブは、資源となります。
また、アルミはボーキサイト(原料)から製造するよりもリサイクルによる再生産では、95%二酸化炭素削減が可能です。これは理美容界にとって、大きなカーボンニュートラルになると感じます。2012年に秋田県で始めたこの活動は、NBBA(全国理美容製造者協会)と理美容品商業協同組合及び各理美容サロンの協力を得てテストケースを行い、その後各地に拡がりました。この活動での教訓は、サロンサイドの大切な事として、異物が混入しない分別と、運搬するための包装と密封方法、チューブ内に残液が残らないよう最後まで使用する事です。今では専用の残液絞り機もあるので、徐々に参加サロンも増えています。理容組合でも、富山県、千葉県、東京都などが活動していますが、ある地域では、収集方法と分別の仕方次第で輸送料金をリサイクル業者が負担するシステムを構築しています。またキャップも、水洗いすれば回収するリサイクル事業者も現れてくれました。ホームカラーをしているお客様から使用済みカラーチューブを回収するサロンも現れ、専用の設備を整えたリサイクル事業者も増え、取引の量も年々増加しています。
東京都理容組合では買取からの収益で、車いすを寄付する活動を続けています。今や使用済みヘアカラーチューブはゴミとして廃棄するのではなく、キャップとアルミを分別して二酸化炭素削減とサスティナブルを実現できる大切な資源です。SDGsの12番目、造る責任使う責任に直接関係する事でもありますので、是非とも全理連組合員全体が行ってもらいたい事案と感じます。
3緑のカーテンの活用
夏の省エネが、毎年のように課題になっています。サロンでもエアコンの設定温度を上げたり、冷やしシャンプーメニューのキャンペーンなどがありますが、ゴーヤやヘチマ、朝顔のようなつる性の植物を外部に地面から這わせて窓を覆う、通称「緑のカーテン」が良い結果を残しています。古来からあるすだれは、乾燥させた植物の茎を編んで作られたものですが、日光を遮ることは出来ますが、長時間日光に当たっているとすだれ自体が温まり、その熱を室内に伝えてしまいます。しかし緑のカーテンは、植物が地面から吸い上げた水分を茎の中に蓄えるため、葉の表面から水分を蒸発させて、植物自体が熱くならないように工夫しています。すだれでは表面温度が40度になりますが、緑のカーテンでは26度です。建物や壁などに熱を蓄積させないので、ヒートアイランド現象の緩和にも役立ちます。真夏のエアコン使用では20~30%の省エネ効果が報告されています(中部電力ホームページ)。1日9時間使用した場合、冷房設定温度を27℃から28℃にすると、670円の節約となり、1時間使用時間を短縮すると、約400円の節約になります(一般財団法人エネルギーセンター2015年版家庭の省エネ大辞典)。緑のカーテンは、可視化、見える化するので、お客様との会話にも役立ちます。自サロンでは3年前から毎年行っておりますが、省エネを体感しています。電力のひっ迫と原子力発電の休止、地球温暖化に対して効果のある対策と感じます。元々は中部電力のプロジェクトからの発表のようですが、今では、全国の自治体や海外からも問い合わせがあります。
4バイオプラスチックへの期待
石油などから作られたプラスチックは、自然界では長時間分解されないまま残ってしまい大きな問題が残りますが、バイオプラスチックは、微生物が出す酵素によって最終的に二酸化炭素と水に分解されるような商品です。
原料はトウモロコシやサトウキビで、生育時に二酸化炭素を吸収して光合成を繰り返すので大気中の二酸化炭素は実質的には増えないため、地球温暖化防止にも役立ちます。現時点ではコストが膨大ですが、製造した商品がそのまま次の商品の原料になる為、次第にコストダウンが可能な事もあり、同業の仲間たちでクラウドファンディングでバイオプラスチックのパーマ用ロッド作成を検討しています。
まとめとして
安価で便利なプラスチックは、現在、処理問題、環境汚染など、転換期に来ています。元々日本人は「もったいない」の精神で物を大切にして来ました。個々人が出来ることから出来る範囲で、環境への配慮を行っていくことが大切であると痛感します。一人の一歩より百人の一歩。例えばポリエステル製のカットクロスの洗濯で、マイクロプラスチックを出さない洗濯ネットの活用など、サロンで出来る小さな行動からの始まりです。日本はプラスチック消費量世界第2位です。改善の期待は十分あります。まさしく今がチャンスです。
2015年9月、アメリカのニューヨークで開催された「国連持続可能な開発サミット」で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が世界共通のコミュニケーション用語になり、2030年に向けて世界が動いています。マンツーマンマーケットである理容サロンでは、会話の中でSDGsを話すことが出来ます。新たなアジェンダも必要になると予想します。
全理連の運営の中に、環境省後援クールビズヘア提案も含め環境に対するプロジェクトチームも検討されているようですが、一人の組合員として期待しています。末文になりますが、来日される海外の方々の日本の理容室への好感度は抜群です。女性に対してのカットやパーマメニューも格段に増え、お顔剃り専門サロンも現れています。1992年のOMC世界理美容選手権が日本で開催され初めて金メダルを獲得した理容ナショナルチームは、その後チーム編成後も世界大会や国際大会で常に上位を保つ活躍です。そんな競技大会の会場のブースの片隅で、日本産のサスティナブルな商品や、エシカルファッションを装った全理連発表のニューライン、そんな活動は世界の理美容関係者に大きなインパクトと環境問題への改善の可能性を与えると感じます。
世界各国の理美容関係者が大会開催を待ち望んでいると予想出来ます。2020年の日本での開催はコロナが原因で残念ながら中止になりましたが、次回を期待して本論文を終了とします。
参考文献
「えんじょいガーデン」板橋区発行ハンドブック
「中部電力ホームページ」