平成24年度業界振興論文・最優秀賞

これからの「訪問福祉理容」

清水知江(京都府)

 

 「ありがとう、キレイにしてもらってスッキリしたわ」ある介護施設で高齢者の一言で笑顔になれました。
 私は義父、義母の介護から多くのことを学び、高齢の方々に目を向けることが多くなり少しでも自分の仕事を生かせないかと思いました。
 病院、介護施設、在宅で介護を受けておられる方が沢山おられます。「今までのように行きつけのお店でカットして欲しいけれど行けない」「行っても迷惑をかける」そう思っているがおられます。私はそのような方の声に応えられるよう「理容師の訪問カット」がもつと充実しなければならないと思っております。
 主人と二人で経営する店でも、ご来店されるお客様の人数のうち、六十歳以上の方が約47%(70歳以上の方は12%)を占め、高齢化が進んできており、車椅子、杖などを使いご来店されるお客様が、多くなってきています。
 店の入り口には段差があり、店内にも角張った器具、設備もあり転倒されると大変なことになります。店の入り口には、取り外しが出来るスロープを作り、本箱・理容椅子の仕切りは可動式にして車椅子、杖などを使いご来店されるお客様に対し体を支え、「お気を付けてください」などのお声掛けをしてお店を出られるまで安心して頂ける介助を取り入れ、さりげないサービスの一部として導入しております。
 介護の知識を学ぶことは、邪魔にならないと思い平成19年にヘルパー2級の認定を受けました。もっと多くの要介護・重度身体障害者の方などのどうしてもご来店できない方に、「キレイにしてもらいスッキリしたわ」の言葉を聞きたくて、こちらから出向き「訪問理容」をしたいと考えました。また、自分自身のスキルアップのために平成23年に介護福祉士の資格を取得しました。
 お店に全理連から配布された「平成の廻り髪結い。それが訪問福祉理容」や、自分で作成したポスターなどを掲示し、ご依頼があればどこでも出かける「訪問理容」をメニュー化し、自分でパンフレットを作り、事業所・介護施設などを回りましたがなかなか難しく、在宅では家の中が汚れたり、訪問先の家族の方が、他人が自分の家の中に入ることを嫌がられることもあり、介護施設でカットしてもらったほうが良いという声も聞きます。すでに介護施設では専門にカットに回る業者がすでに契約しているなど、個人の活動ではなかなか前進することができませんでした。
 幸いにも今年の5月に、ある介護施設から「訪問理容」のご依頼をいただき、喜んでお受けしました。最初の介護職員の方の面談の時に、料金や、あってはならないことですが入所者の方にケガなどを負わせたときは、全理連の「賠償責任補償共済」が適用されることをお伝えしましたところ、職員の方が「理容の訪問カットではそこまでしっかりとケアされているのですか」と驚かれました。私もこのお言葉を聞いて、この時ほど「組合員」でよかったと思い、ありがたく安心いたしました。
 施設のカットでは、「どこにも行かないから」とか「何もしないから短くていい」と言われる方が多くおられますが、施術中に積極的に会話を心がけ、コミニュケーション図ると「鼻毛を切って欲しい、眉毛を短くして欲しい、耳の産毛を剃って欲しい」などを自分からご依頼されることがあります。ご希望に応えてあげれば「ああキレイになり、スッキリしたわ」と笑顔で言われ、今まで下を向いていた方が帰えられる時には背筋を伸ばし、前を向かれていました。
 私は「どんな人でもいつも、人として美しい姿でいたい」という高齢者の声を聞けたように感じました。
 総務省の調査では、日本の総人口は平成22年10月1日現在1億2806万人で、65歳以上の高齢者人口は過去最高の2958万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)が23,1%となっています。
 高齢者人口のうち、「65~74歳人口」は1528万人(男性720万人、女性808万人)で総人口に占める割合は11,9%、「75歳以上」は1430万人(男性545万人、女性885万人)で、総人口に占める割合は11,2%になり、75歳以上人口が大きく増加している一方で65~74歳人口が若干減少しています。わが国の総人口に占める65歳以上の高齢者人口は、昭和40年に国連の報告書で「高齢化社会」と定められた水準7%を超え平成6年にはその倍にあたる14%を越えています。今まさに23%を超え、5人に1人が高齢者、9人に一人が75歳以上人口という「本格的な高齢社会」を迎えています。
 一方で、高齢者人口は、今後いわゆる「団塊の世代」(昭和22年~昭和24年に生まれた人)が65歳以上となる平成27年には3000万人超え、「団塊の世代」が75歳以上となる平成37(2025年)年には3500万人に達すると見込まれ、その後も高齢者人口は増加を続け、平成54(2042年)年には3863万人でピークを迎え、その後は減少の転じると推計されています。
 また、総人口が減少するなかで高齢者が増加することにより高齢化率は上昇を続け、平成25年には高齢化率は25,2%で4人に1人となり、平成47(2035年)年に33,7%で3人に1人となります。
 平成54(2042年)年以降は高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、平成67(2055年)年には40,5%に達して、国民2,5人に一人が65歳以上の野高齢者となる社会が到来すると推計されます。
 要介護(要支援)の認定者数も厚生労働省の24年の調査で525万人、老人施設などのサービスの受給者も87,5万人となっています。重度身体障害者は、平成18年同省の調査では167,5万人で18歳以上の在宅の身体障害者は348,3万人、施設入所者は8,1万人となっています。特に重度身体障害者は増加していると報告されています。
 前述したように「「今までのように行きつけのお店でカットして欲しいけれど行けない」・「行っても迷惑をかける」とお考えのお客様が多くなります。これからは全理連の組織力、私たち理容師が努力で「訪問理容福祉カト」をもっと充実しなればならないと思います。
 全理連では、平成22年に「訪問福祉理容」を事業化され、今年の2月18日の第155回臨時総会・同評議委員会で理容店の売上げアップを目指す営業支援に注力する全理連事業計画が承認されました。その中に、超高齢化社会に対応するサービスの全国的システムの確立(サービスのNPOを法人化ど)し、訪問福祉理容の各店でのメニュー化を目指す「訪問福祉理容事業の推進」がありました。
 この事業が具体化し、NPO法人資格が取得できると社会の価値観、社会問題などが多様化し、サービスのニーズも大きく変化したなかで団体としてさまざまな契約を結すんだり、福祉・医療などで公的サービスが、利益優先になりがちな営利企業のサービスと違った先進的な試みを規模が小さいけれど、行政・営利事業が対応できない分野をカバーし 済的側面も大きくなる可能性があると考えます。
 今までの「訪問福祉理容」サービスを大きく前進させ、個人・各都道府県理容衛生同業組合などが個々「在宅」「介護施設」などで行っていた「訪問福祉理容」が今までより容易になり、社会的評価・貢献により消費者に員外店との差別化をアピールすることができるNPO法人化を提案された大森利夫理事長はじめ執行部の役員皆様に心より御礼申し上げます。 
 これまで日本の高齢者福祉は施設入居を基本に進められ、規模の大きな特別養護老人ホームなどが建設され、大勢の入所者を一ヶ所に集め介護してきました
 平成12年には介護保険制度が新しくなったことに対して、高齢者の60%が自分らしく住み慣れた家で介護を受けたいとの願いや
 国の財政が厳しいこともあり、お金のかかる「施設介護」から在宅介護支援を強化する「地域密着型支援」を重視する流れが強まってきています。
 政府・与党も国会の承認を得なければなりませんが、「社会保障・税の一体改革大綱」を閣議決定し、社会保障の機能強化やその維持のために、消費税の引き上げなどによって財源の確保と財政の健全化を目指しています。大綱の中には六つの分野の社会保障改革を推進することが盛り込まれています。その中の一つに「医療・介護サービスの強化」があります。団塊の世代の多くが後期高齢者になる2025年までに「高度急性期への医療資源集中投入などの入院医療強化、地域包括ケアシステムの構築などを図り、どこに住んでいても適切な医療・介護サービスが受けられる社会の実現」に取組むということです。    
 地域包括システムとは在宅医療や訪問介護、
 重度化予防、日常的な生活支援などに従事する多職種機関が連携し、一人の患者に対して包括的なケアサービスを提供する仕組みを目指しています。
 このようにこれからは介護を「在宅」で行うことが多くなってきます。理容業にとり訪問福祉理容サービスに対するNPO法人化が実現すれば、高齢者に多様な質と量のメニューを提供する「在宅」の「訪問福祉理容」が多くなってくることを確信しております。
 私は「待つ仕事から出向く仕事へ」、そして沢山の人との出会いから生まれ得ることのために、人と人との出会いを大切にしてコミニュケーションを図りながら、理容師として、利用者様との関わりを大切にしていきたいと思っております。
 また、異業種が高齢者に食事の宅配業務、介護用具などに参入してきているように、全国に展開している大手の大衆理容チェーン店もNPO法人化をし、「訪問理容」を事業化する可能性もあると考えております。大森利夫全理連理事長のお力と全組合員の努力で早期のNPO法人化の実現、難しい面もありますがわたしたちの「理容」という仕事に「介護保険」が導入されることを心より願っております。
 今後、各都道府県理容生活同業組合各支部で、全理連の「訪問福祉理容」のNPO法人化が実現すれば、早急に地域の都道府県・市町村の福祉課や介護施設などに周知を図らなければなりません。
 また、ケア理容師・訪問福祉理容師・ヘルパー2級・介護福祉士資格を取得された組合員を登録し、地域密着で在宅の高齢者に好きな時に「訪問福祉理容」が受けられ、いつでも「在宅」で高齢者の方が、「キレイでいられること」が幸せと感じてもらえることが、今の私の最大の願いです。
 立場が変わり、私たちもいつかは「高齢者」と呼ばれる時が必ず訪れたときのことを考えて今、その思い・願いを理解できるように理容師として「訪問福祉理容」をがんばっていきたいと思います。

 

審査講評 
審査委員長  尾﨑 雄(生活福祉ジャーナリスト)

 介護保険制度がスタートして12年。国は平成24年度の介護報酬と診療報酬の同時改定を機に要介護老人を世話する場を病院・施設から自宅およびそれに準じる集合住宅などへと切り替える「在宅化」をスピードアップした。在宅ケアの地域モデルの指定や在宅医療を行う医療機関に対する診療報酬の引き上げだ。高齢の患者や要介護高齢者は病院など医療施設や特別養護老人ホームから有料老人ホームや老人マンションを含む自宅に“民族移動”を余儀なくされる。
 このため多くの産業は寝たきりや老衰で外出困難になった高齢者の自宅を訪問して商品やサービスを届ける「在宅シフト」に力を入れ始めた。高齢者の生活嗜好に寄り添う技術と接客感覚を備えた理容業は高齢者の生活の質を高める。それだけに訪問理容はサービス産業における成長分野のひとつである。最優秀作は超高齢社会のメガトレンドに照準を絞った訪問理容の戦略的な重要性を分かりやすく説く。

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