理容業界における「女性活躍社会」を考える
宇野晴道氏(滋賀県組合)
目次
一、はじめに
二、現状と課題
~がんばる女性理容師~
~他業種からの参入とその対処~
~癒しの技・街のオアシス~
三、女性理容師活躍社会へ
~つながりと組織~
~終わりに~
一、はじめに
私事ながら今春より長女が理容の道に進んだ。特に小さい頃から理容師になれと洗脳したわけではなく、単純にヘアメイクに興味があり、髪の毛に関わる仕事してみたいとのことだった。もちろん美容師という選択枝もあったが、理容師の道を選んだ。
それは飽和状態である美容師ではなく、衰退産業と言われている理容業界の中でもきらりと輝く女性理容師さんが周りに多くおられ、そのような理容師になって欲しいというこの業界の先輩でもあり、父親でもある私の気持ちに応えてくれたのもある。
美容師免許とのW資格を持っても良いし、エステの世界に進んでも良いし、男親目線で怒られるかもしれないが、店の跡を継いでくれるもかもしれないし、男性理容師との結婚という選択肢もあり、一般男性と結婚した場合でも家の片隅で小さな理容店を営むってこともでき、いろんな選択肢がある。もちろん独立もありである。
そう考えていたら、ふと理容師は男性より女性の方が向いているのではないか?下世話な話だが男性客も女性理容師に施術される方が嬉しいのではないか?男性美容師が増えている今、女性理容師が増えてもおかしくない。
女性理容師といえば店主の配偶者でおかみさんの立場で店や家を切り盛りしているイメージがあるが、最近では奥さんが別の仕事をされているところも増えている。
その代わり、先述したように経営者として第一線で活躍されている女性理容師も多くおられる。
奇しくも政府が『女性が活躍する社会』を推し進めている。昔から女性理容師が少なくない世界だが、これからの理容業界には女性理容師の活躍は不可欠であり、後継者不足で衰退産業と言われ、組合離れも多く暗い話題が多い中で一筋の光となるのではないか?
そこで理容業界における『女性活躍社会』を考えたいと思います。男性目線で偏っていると思われるかもしれないが、女性主観でなく客感的に考えていきたいと思います。
二、現状と課題
~がんばる女性理容師~
私の妻や母、そして姉も理容師免許を取得しています。母は隠居しましたが、妻は家業を手伝ってもらっています。姉も同業者に嫁ぎ家業を手伝っております。そんな環境でそだっているせいか、私の中では女性理容師は一線で働いているというより、サポートの立場といういかにも男性的なイメージを持っていました。しかし、組合行事等に参加し周りを見渡しますと、夫婦で働いていても技術者として旦那さんと共に第一線でカットされている方や、店主としてお店の経営をされている方もおられます。
一口に女性理容店経営者と言ってもいろいろとおられます。男性客はもちろん、お顔剃りを活かしレディースシェービングやフェイスエステを中心に女性客をターゲットにされている方、女性のきめ細かいサービスで癒しの空間を作り、フェイスケアをはじめハンドマッサージやスカルプなどメンズグルーミングを行う方、老若男女問わず街の〝さんぱつ屋のおばちゃん〟として地域に愛されている方、これからの高齢化社会を見据え訪問理容に力を入れておられるかたなど、いろいろカタチが違えどもどれも女性ならではというか女性だからこそやれる経営をされています。
~他業種からの参入とその対処~
理容師法・美容師法の緩和により、理美容の垣根が低くなり益々理容師の存在意義が問われている。そこで理容業界では理容だけに認められているお顔剃りの技術に目を付け美容との差別化を図ろうとしている。とくに全理連ではシェービングマイスター制度を導入やBBエステの普及に力を入れている。BBエステに関しては女性理容師のみなさんのお力が必要とされます。
特にデコルテや背中なども剃るブライダルシェービングに関しては男性理容師にとって禁断の領域とも言えます。花嫁さんにしても女性の理容師に施術された方が安心して任せられると思います。
一方、美容やエステ業界でもお顔剃りを注目しているようです。
昨年、娘の付き添いである理容美容専門学校のオープンキャンパスに訪問した時に聞いたお話です。今、理容師免許を取得する女性美容師やエステシャンが増えているとのことです。これに応えこの専門学校では理容科にブライダルエステ・シェービングコースを設置されました。長らく後継者不足と言われ、理容科の閉講や理容専門学校自体が閉校するなか、理容師として理容師の仲間が増えるというのはたいへん嬉しい話題の一つですが、理容店で働く方が増えるわけではないということが少し残念であります。
今年、平成28年4月1日付で理容、美容所の重複開設が可能になる改正が施行された。
理容所、美容所ともに必要な衛生要件を満たし、かつ、施設内で働く施術者全員が理容師資格と美容師資格の両方を持っている場合のみ同一の場所で開設を認めるというものである。施術者一人でも片方資格では不可とハードルが高くなっていますが、美容師が理容師資格を取得しに専門学校に通っている事実がある以上、近い将来美容店でもシェービングの施術メニューが出てくることになるでしょう。
とはいえ、シェービングの技術は一朝一夕で身につくものではありません。今までも美容師が理容店にシェービングを教えて欲しいというのはあったそうですが、技術の奥深さを知りすぐ断念されるというのを聞いたことがあります。しかし、これからW取得が緩和されるという方向だとより一層理容師資格を取得の為、理容科で勉強する美容師が増えるでしょう。一から理容技術を体得する美容師は脅威だと思い、いつまでもシェービングは理容師だけの技術だとあぐらをかいていたら足元をすくわれることでしょう。だからこそシェービングマイスター制度は継続していき広げていくことが大事であると思います。
~癒しの技・街のオアシス~
シェービングやシャンプーの触感技術はむさくるしい男性よりも女性理容師が施術されたほうが男女問わずいい感触が得られるのではないかと思われます。
シェービングマイスター講習において、シェービングの他に耳シャンプー、ヘッドスパというエステ、グルーミングメニューも提案されている。
男性向けのグルーミングサロンは大都市のホテルやデパートなどで展開され高級店のイメージでスタッフも女性理容師が多い。最近ではビジネス街や地方都市でも男性向けグルーミングサロンが増えてきている。
ストレス社会とも言われる現代社会。癒しを求めるお客様が増えている。女性客向けにしても、男性客向けにしても女性理容師の活躍が期待される。
しかしながら触感技術だけが癒しの技術ではなく、ゆったりとした理容椅子に座り、心地よいBGMの中、施術者との会話を楽しみ、何よりも頭を触ってもらうと気持ちよく、小気味よいハサミの開閉のリズムが相まって安眠される。一般的なサロンワークも癒しの技術である。〝街のオアシス〟的な役割も必要である。
今、子供が加害者になる事件が問題となって、各地域でまたは各都道府県組合が各警察本部と協力しこども110番のお店に登録しておられるお店も多くそういう意味での〝街のオアシス〟であり、何かあった時に男性理容師がいて安心だが、残念ながら狙われるのは女の子の方が多いので心のケアができるのは女性理容師だと思う。我々の仕事を地域社会に密着し、地域の方々のお陰で商売させてもらっているので地域貢献は当然である。核家族、両親共働き家庭が増え、地域で子供達を育てようという考えもあり、学校帰りや近所で遊んでいてもすぐ駆け込め、そのサロンの女性理容師は〝街のお母さん〟〝街のお姉さん〟であるべきだ。全理連が提唱する『キッズ三つ星サロン』の必須条件に『理容こども110番』の看板を掲げているお店を入れて欲しいと思います。
また、高齢化社会にともないお身体が不自由になりご来店できないお客様もあり、ご自宅や施設、病院への訪問理容の機会も増えてくると思われます。先の厚生労働省の通達によりその対象の範囲が広がり組合、訪問理容実施店の対応が大事となります。
自店も依頼があれば訪問理容をさせてもらいますが、女性の方のお宅に伺うと気を使います。老いたとはいえ異性に寝巻姿などを見られるのは嫌ではないでしょうか?その点でやはり女性理容師さんはホスピタリティもあり向いているのではないでしょうか。実際、本職のヘルパーさんや介護職員さんも女性が多く、ケア理容師に登録されている理容師も女性が多いです。せっかくのケア理容師制度を有効に活用するべきであります。
このようにBBエステ、シェービングマイスター制度、キッズ三つ星サロン、訪問理容と全理連がすすめる取り組みも女性理容師の役割が大きいし、活躍が期待されます。
その為にも女性理容師同士の継がりを活発にする必要があり、組合として女性部の活動が大事になってきます。
三、女性理容師活躍社会へ
~つながりと組織~
しかしながら全国的に女性部員さんの高齢化や新たに参加する若い方が少なく全体的に女性部員減少によって、活動が縮小している女性部が増えてきていると聞きます。
組合員減少、経費削減、事業縮小の社会全般の傾向で組合活動が減退しているというのも原因の一つでもあります。
女性経営者、女性組合員およびスタッフや家族従業員の女性理容師達との情報交換や交流する場が減るというのは〝女性活躍社会〟という時代の流れと逆行しています。理容業界の未来を考えると女性部という組織、情報交換の場はなくしてはいけないものです。
熱心な方々はSNSなどのネットツールを活用し自分達で交流の場をもち、情報交換や勉強会を開いておられると聞きます。中には組合員店、員外店とか関係なしに交流するグループもあるそうです。そういった員外店の女性理容師さんにも少しでも組合の良さを感じてもらい、組合に加盟してもらえるように全理連としてもなにかバックアップできるシステムを考える必要があるのではないでしょうか。
前述のように女性理容師さんも得意分野とか経営方針、それぞれのお店の立場が違います。ネット時代の現代、そういった境界線を飛び越えたやり取りが可能となっています。各都道府県組合、各支部といった地域的な枠組みも大事で。地域の女性部のつながりも必要ですが、それとは別に全国的な規模で各分野別に集まれるサイトやSNSを全国女性部または全理連が作成してもいいのではないか。それは女性理容師だけとは限らず全組合員、青年部員向けのネット上で交流する場ができればと思います。
ネットやSNSには利点も問題点もあります。やってみないとわからない。全理連にはホームページがあるがフェイスブックページなどSNSサイトはありません。是非ご検討していただきたいと思います。
また、そういった活動する上にあたってやはり組織の中枢に女性の登用が不可欠です。全理連中央講師の中には多数の女性中央講師がおられ活躍されており、BBエステ普及事業においてもその中心におられます。組合の運営にも女性の登用を考える時だと思います。
数年前に沖縄県で女性理事長が誕生し、初の全理連女性理事と話題になりました。今、どれくらいの女性の支部役員や都道府県組合の常任理事がおられるか分かりませんが、女性組合員がおられるかぎり、女性理事、女性役員が当たり前の出来事にしなくてはなりません。
男性目線だけでは見られない部分も女性目線なら見られることもあります。もちろんその逆もあります。左右の眼如く両眼あってこそ視界が広がるというものです。
~終わりに~
女性理容師の皆さんが読まれたら、『男が何を言っているのだ』と思われる内容かもしれませんが、一般的にも女性対象にマーケティングし、女性が開発した商品や企画がヒットするというのが当たり前で、エンターテイメントの世界でも女性ファンの声や女性スタッフの意見が反映されていると聞きます。
今や女性が世の中を動かしていると言っても過言ではありません。女性の力を無視して社会の繁栄はありえません。女性を活用し、女性が活躍できない業界は衰退していきます。
そして『女性活躍社会』が実現してこその『一億総活躍社会』なのです。女性理容師が活躍すれば、我々男性理容師も刺激になり奮起します。『女性理容師活躍社会』から『総理容師活躍社会』へ。
最後に私事ですが、一人前の理容師を目指し理容の道を歩き始めた娘に追い越されないように、私も生涯現役理容師でいたいです。
参考文献・資料
・平成27年6月30日閣議決定
規制改革実施計画
投資促進分野 個別措置事項
理美容サービスの利用者ニーズに応える規制の見直し №17~№23
・理楽TIMES
審査講評
審査委員長 尾﨑 雄(生活福祉ジャーナリスト)
「今春より長女が理容の道に進んだ」。いかにも娘の父親らしい書き出しだ。美容師免許とのダブル資格取得でもエステの世界に進んでも、店を継いでくれても、男性理容師と結婚した協働経営でも一般男性に嫁いで仕事を続けても、むろん理容師として独立しても――と、手に職を持つ女性の多様な生き方を受け入れるみずみずしい感性が、我が娘への愛情と重なりあって読者を引き込む。女性理容師が技術者であれサロン経営者であれ、自立していくことへの期待感があふれる。筆者が「理容」をめぐる社会・経済・風俗の環境変化を冷静かつ的確につかんでいるからだろう。優秀作「技術を売る時代から価値を売る時代へ」が指摘した理容の新たな価値を創造し、コミュニティ企業としての理容業の明日を担うべき女性理容師をクローズアップする。「男性目線だけでは見られない」理容業界の未来を問いかけ、ありきたりな「女性の手に職」論に終わらぬ広い視野と深い奥行きを備えた文章ではないか。