理容業だから出来ること、
理容業しか出来ないこと ―戦わない商い-
山中知規(福岡県組合)
目次
序論
イメージの払拭。景気は自分で作る
本論
1.なぜメンズシェービングで収益が上げられるか?
2.メンズシェービングの方向性
3.世代別アプローチ
4.現在の私のシェービングPR活動
結論
理容業の確立。戦わない商い
『序論』
消費者の間で、オシャレ=美容室。おじさんの行くところ=理容室。という図式ができて久しいが、最近は、美容室に通っていた男性が理容室へ戻ってきている現象もあり、さらに、BARBERブームも起こっている。だからといって、この流れにただ乗っていたのでは、ブームが過ぎ去り、見向きもされない日がやがて来る。だから、現状に楽観視するのではなく、消費者が理容室に目を向けてくれているうちに、新たなる『理容ブランド』を構築していかなくてはいけないと思う。その役を担ってくれるのが、総合調髪のおまけとなっているシェービング。私はこのシェービングこそが、新たな収益を上げる可能性を大いに秘めいていると感じています。それを、今から私のサロンでの取り組みと考えをすり合わせて紐解いていきます
『本論』
まず始めに、労働省編職業分類の職業名索引には 17,209種の職業名が採録されている(2011年版)この職種の中で国家資格を有し、生きた人に刃物を当てられるのは「医師」と「理容師」だけであり、なおかつ快感技術となると「理容師」だけしか出来ない唯一無二の特権を持っていると言うことを頭に入れて読み進めていただきたい。
1.なぜメンズシェービングで収益が上げられるか?
今、男性の興味が髪ケアから顔のケアに移行しだしているのです
(日本能率協会総合研究所調べ)
資料によると30代と50代を中心にメンズコスメでケアする男性が増加している。化粧水使用率が24%を超え、4人に1人が使用しており20代の使用率が一番高いが、30代と50代の増加が著しく目立っている。背景として、10代から「ニキビケア」に親しんできた今の30代は洗顔料や化粧水の使用に対して寛容で、オシャレへの関心が高く、バブル時期を経験した50代男性も「若く清潔な印象を持たれたい」と意識が高い。一方でヘアスタイリング剤の使用が減り、特に10代の髪のおしゃれに対する関心が低下していることがわかる。10代は「何も使わない」が6割を超え、今どきの10代は髪のオシャレに対する意欲が急速に低下している。ヘアスタイリング剤は10代~30代のワックスの使用が激減し、オシャレが定着した30代、清潔に見られたい50代がメンズコスメの消費を牽引している。このように非常に肌に対する意識が高まっており、シェービングは大いなる武器となります。しかし問題もあります、スキンケアの関心が高まってはいますが、スキンケアの仕方、ヒゲの剃り方を知る機会がどれだけあるでしょうか?お客様に尋ねると、見よう見まねの自己流で使われている方がほとんどです。知る機会が極端に少ないのです。そこで、理容師がスキンケアの先生になるのです。「ヒゲの剃り方」や「商品知識」を伝える事で、専門性を高めていき。間違えたヒゲ剃りやスキンケアを防ぐのです。お客様に日常のケアほど大切な事を理解してもらい、そして、サロンで定期的にお肌のメンテナンスを行う事を伝えていくことでサロンシェービングの需要が高まります。
もうひとつに、売り上げは3つの要素の掛け算で成り立っています
売上 = 客数 × 来店回数 × 単価 の数式です
お客様が2ヶ月に1度、年6回のご来店とすると(単価を仮に3500円とする)
2万千円が一年間でお支払いいただく金額となる。来店回数か単価が上がれば、お一人からいただける金額が上がります。賢明な経営者ならこの取り組みをされているでしょうが、ココをあえてヘアカットと考えず、ヘアカットとヘアカットの間にスキンケアのためシェービングでもう6回来店してもらうのです(単価を仮に1500円とする)すると9千円増となります。こうすると、お一人様が合計年12回来店され、年間3万円のお支払いになり、ヘアカットだけでご来店いただくより143%の伸びになります。全てのお客様に当てはめないとしても、年間千人の来店とすると。そのうちの2割の方がシェービングだけで来店すると。シェービングの売り上げは180万円。実に、108%の伸びになります。営業形態を変えずに売り上げ増が見込めるのです。それに、美容室を利用している男性、カットオンリー店を利用している男性をシェービングだけのお客様として獲得することができれば、まだ伸びしろはあります。
2.メンズシェービングの方向性
一般消費者のひげ剃りに関しての悩みのデータだが、ひげ剃りによる悩み「剃り残し」「剃りにくい箇所」はサロンシェービングで解消でき、「カミソリ負け」「血が出る」「ひげがひっかかる」は道具の使い方、正しい剃り方をお伝えすることで解消できる。要は私たち理容師がお客様にきちんとお伝えすることでひげ剃りの悩みはほとんど解決してしまうのだ。次にサロンシェービングを見てみる。
現状のサロンシェービングは「気持ちいい」派と「痛い」派が混在している。シェービングは痛いからシェービングが無いカットオンリー店は「早い」「安い」で嬉しいという声もある。かと言えば、シェービングが無い美容室には行きたくない。と言う声もある。
綱引きで言えば拮抗状態ではないだろうか。このパワーバランスは、何も手を打たないと悪い方向へと崩れかねない。顔そり=「痛い」「ヒゲはすぐ生えるので必要ない」と言う認識が出来上がらないうちに変革が必要である。その為にはサロン側も「ただヒゲを剃る」という行為からの脱却が必要となります。
上記にあるよう、サロンシェービングの不満は深刻である。解消するためには、「ただヒゲを剃る」行為から「スキンケアも含めたシェービング」へと進化させます。私が提唱するシェービングは俗に言うエステティック色を強めた高級シェービングと言うよりも、もっと根幹である。肌をいたわりながらシェービングを行うものです。男性の肌は女性に比べ、角質は20%~30%厚いと言われており、本来なら肌は強いはずですが、近年、男性の肌トラブルは深刻になっています。皮膚は、女性より水分量が30%も少なく、アブラの量は3倍もあり、とてもバランスの悪い状態で、日常のヒゲ剃りにより、Uゾーンは乾燥し、Tゾーンは脂ぎっている、混合肌も増えています。この肌をケアするために、決められたコースをするのではなく、お客様ひとりひとりの肌の状態を見極めて、ダメージを修復する最適な商材や施術を行うシェービングが必要になってきます。端的に言えば、パーマやヘアカラーの時に行う、前処理、後処理をシェービングでも行うということです。サロンでシェービングを行うたびに肌を最適な状態へ導く(ターンオーバーを正常化させ角質のバリア機能を強くさせる)ことにより、シェービング時の「痛み」や「肌荒れ」から守るのです。的確なアプローチをするためには、肌知識の再認識が必要であり、個人レベルで知り得るには限界もありますので、ぜひ、全理連で改めて肌知識を増やすための取り組みを行っていただき、組合員で共有化すれば、非組合店との差別化も図ることが出来ます
3.世代別アプローチ
世代別にプラスアルファの考え方。10代・20代前半はヒゲも少なく抜く人も多い。剃ると濃くなると間違った情報も蔓延しているので、間違いを正して、眉剃り(眉デザイン)や目の周りの産毛を剃ると印象が明るくなる事を伝えると、喜んで施術を受けてくれる。20代後半から30代は美容室からの移行も出てくる時期で、肌トラブルも出やすい時期である。ヒゲも濃くなる時期なので正しい剃り方を教えたり、エステシェービングが好まれ、一度体感すると、美容室に戻りにくくなる。40代から50代はシワやタルミが気になり出すので、シェービングに保湿ケアを加えると肌が若返ると勧める。このようにケアするシェービングにプラス年代別アプローチを作ることで、理容室でのシェービング価値をさらに高める事が出来る。それに付随して自宅でのケアの仕方をお伝えすることで店販も可能となる
4.現在の私のシェービングPR活動
ポスターを作り、店頭に貼りだして、美容室へ通っている男性へシェービングのアプローチを行った。狙いとしては、お試し来店。ヘアスタイルを委ねるには勇気がいるので、シェービングで来店いただき、理容室の雰囲気を味わってもらい。ゆくゆくはヘアスタイルも任せてもらえるよう信頼を築いていく。実際にこの誘導は成功した。
意志ある仲間6人で作ったシェービングPRの「のぼり」現在は6店舗だがいずれは多くの理容室の店先でこの「のぼり」をはためかせたい。
お客様にもっとシェービングの価値を知ってもらうために、ヒゲの豆知識やご自宅でのシェービングの仕方。カミソリの扱い方を書いた冊子を無料配布している。このお陰で、お客様よりヒゲの剃り方や肌に関する悩みや質問を受けることが多くなった。
『結論』
今の男性はスキンケアについて積極的であるが、必要な基礎知識を持ち合わせずにシェービングを行い、不用意に肌を傷つけ、本来、快適であるサロンシェービングにも影響を与えかねない肌状態になっている。数ある職種の中で「シェービング」を許されているのは「理容師」のみ、その私たちが立ち上がらなくて、誰が男性の肌を良くしていけるのだろうか?「シェービングのプロ」は「剃るプロフェッショナル」だけじゃなく「ホームケア(シェービング)」をも提案できるべきではないだろうか?そして、全理連でチームをつくり技術、肌知識の研究、消毒の徹底を各県下の理容組合に浸透させ、同時に、よりよいシェービングは組合加盟店で受けられると消費者へのPR活動を行えば、美容室やカットオンリー店との差別化だけでなく、非組合店との差も作れますし、理容組合へ加盟するメリットも一つ増えることになります。もともとシェービングは理容師なら誰でも出来る技術なので、考え方・提案の仕方をシフトするだけで、どこでも真似が出来ない専売特許をローリスク・ローコストで手に入れることができます。ヘアカットやスタイリングだけで営業を行い美容室やカットオンリー店と限られたパイを奪い合い競争の渦に巻き込まれていくよりも、理容の専売特許を全面に打ち出すことにより、競合他社のいない市場に打って出て疲弊しない商いがこれからは必要です。こうすることにより、美容室やカットオンリー店との差別化が進み、消費者が選びやすい市場が出来上がります。そう、理容室へ通う理由ができるのです!今こそ、この強みを理容組合で全面に打ち出す時です。
以上。私の主張とさせていただきます
参考文献
日本能率協会総合研究所
日経MJ 2013年6月19日発行
トレンド総研
クラシエ
審査講評
審査委員長 尾﨑 雄(生活福祉ジャーナリスト)
理容業だから出来る、理容業しか出来ない、という着眼点が優れている。戦後七〇年目の大転換期をシェービングという〝決め技〟で乗り切ろうとする新鮮な提案である。古い技術ではあるが、医師を除いて国家が理容師だけに〝免許皆伝〟を授けてくれた伝家の宝刀である剃刀技術を、新しい時代に合わせて最大限に活かす新しいサービスとして再開発し、その実践を提案する。単なる理念やプランニングの表明ではなく、資料に基づく市場動向を予測したり、実際に店頭で使用している宣伝の幟を見せたり、営業的な試算をしたりしていて説得力がある。シェービングの単品売りにとどまらず、日本男性の身だしなみのトレンド、つまり生活文化の変容に介入して商機をつかもうとする。それを個店改革のレベルにとどめず、全理連の組織をあげて新しいライフスタイルを社会に提案することによって新市場を創造し「パイの奪い合い」から脱するという戦略的な発想が画期的だ。