レディースヘアの技術の習得と集客方法を考える
小笠原吉富(宮城県組合)
序論
このところの理容業界は理容師による女性パーマの解禁や、理容室、美容室での美容師、理容師の雇用許可、3年で理容師、美容師両方の免許を取得できるようになったりと理容と美容の境界がなくなりつつあり、理容組合でもニューヘアで女性のヘアスタイルを提案するなど女性への技術やサービスへの対応を加速させています。
しかし、消費者の認知度や、理容店の受け入れ体制、技術への対応はまだまだという方が多いのではないでしょうか。必要性をあまり感じないと考えている方もいるでしょうが、多くの方はどのようにすすめたらいいか二の足を踏んでいるのではないでしょうか。年代的に訪問理容に重点を置く方もいらっしゃるでしょう。しかし、訪問理容も他と比較されたり、競争がないわけではありません。介護施設では女性の利用者もいるわけですし、ヘアスタイルの要望もあることでしょう。ですから多くの理容師にとってレディースカットは不要だと言えないのではないでしょうか。そこでどのようにして女性のカットに対応し、集客につなげていけるようにするかを考えてみようと思います。
本論
多くの女性の方は、理容店にお顔剃りを目的に来店されると思います。中にはカットや白髪染めなどされる方もいらっしゃるでしょう。多くの理容店は、男性のお客様に比べて女性のお客様の年齢層は比較的高い方の割合が多いのではないでしょうか。
女性はホルモンの分泌の減少によりお顔のうぶ毛が濃くなり、中には黒い髭が生えてくる方もいらっしゃいます。カットは美容室、お顔剃りで理容室に来られる方も多いと思います。ですから女性のカットのお客様に対応していくうえでは、まず高齢者の方からアプローチしていった方がいいと思います。
高齢者の方はほとんどがショートヘアなので、他の年代の方より入っていきやすく、シンプルなデザインの方が多いのでベーシックなカットで十分対応できます。また、子供の頃はとこやさんでおかっぱにしてもらったという話もよく聞きます。ですから若い方ほど理容店でカットすることに抵抗感を感じない方もいらっしゃいます。実際、私の店でもカットで来店する方もいらっしゃいます。
高齢者の方は普段家で時間を過ごすことが多いので、お話をするのが楽しみという方が多いです。また、お話をしている中で高齢者の女性の方には様々な需要があることがわかってきました。
私の店のある町は人口が約1万人ほどで、移動手段は自家用車です。お客様の中には自分で運転できずに家族の方に送ってもらったり、タクシーで来られる方もいます。2015年のデータでは、歩いてコンビニやスーパーに行けない買い物弱者と呼ばれる方が全国で824万6千人いるといわれます。理美容室も自宅から遠いと自分でなかなか行けません。
そこで、お電話していただければ自宅からお店に送迎しますとお話したり、店の中にPOPを貼ったところ今では20人以上の方を送迎しています。私と同じ地方の理容室ではやってる方もいらっしゃると思いますが、今高齢者ドライバーによる事故や高齢者のかかわる交通事故が多い中で、送迎サービスはお客様やその家族の方に安心感と利便性を感じてもらえるサービスと考えます。車があればすぐ始められますし、地方の理容室だけでなく、交通量が多くて見通しの悪い都市部の住宅地でも喜ばれると思います。
高齢者の方には1人暮らしの方や、同居している家族が共稼ぎで日中は1人でいる方、旦那さんと2人暮らしだけど高齢で運転はできない方、一緒に暮らす家族に車で送ってもらうのは気をつかって頼みづらいという方もいらっしゃいます。そのような方々にも遠慮せずお電話くださいとお伝えします。
また、多くの方は年金暮らしですから、タクシーで来られる方はタクシー代が節約できますし、理容店でカットと顔剃りができれば2往復分のタクシー代がかからないわけですからそれだけでも大きいと思います。
女性の方は何歳になっても身だしなみを気にします。病院などで外出したり、誰かが家に来られた時に髪がバサバサだったり、白髪や顔のうぶ毛が目立ったりしてたら恥かしいと話す方もいらっしゃいます。また、70代以上の方の中には、自分で満足に頭が洗えないとか、冬にお風呂場で頭を洗うと風邪をひくからとシャンプーで来店する方もいらっしゃいます。お風呂場での急な血圧上昇による死亡者の数は2015年のデータで5293人でほとんどが70代以上の高齢者です。お顔剃りのときに眉毛をきれいに整えたり、アイロンで髪をセットすると大変喜ばれます。昔は自分でやっていたことも年とともにうまくできなくなったり、面倒でやらなくなったという方に理容店で髪や眉毛をきれいにしてもらえれば来店の機会も増えます。
理容店の女性メニューをより身近に感じてもらえる方法として、お店でカットや白髪染めなどされた方に許可をいただき写真を撮らせてもらい、フォトアルバムにして客待ちに置いてみてはいかがでしょうか。その時は写真にお客様の顔が写らないようにした方がいいでしょう。雑誌やパンフレットより、実際お店でカットやカラーなどした方の写真を見れば、より理容店の女性への技術に信頼感を感じてもらえます。写真の横にカットの説明や、カラーの色や明るさ、料金などを書くとより分かりやすいでしょう。少しずつ写真が増えていけばヘアスタイルやカラーの種類などの選択肢が広がりますし、下の年代の方で同じようなヘアスタイルやカラーをしている方が見れば徐々にお客様の年齢層も幅広くなっていきます。こうして少しずつではありますが、お顔剃りだけでなくカットや白髪染めなどをする方が増えればお店の女性客の比率も上がっていきます。そして女性のお客様は比較的平日の日中に来店されるので、営業的にも効率がよくなります。
高齢者の女性の方は情報や行動範囲が若い方より広くないので、理容店での女性のカットが定着すれば顧客の増加につながります。現在多くの組合員の方は2人以下の家族経営で、経営者の平均年齢は64.1歳、60代と70代で7割を占める中で、年代も近く多くの組合員の方々が取り組むことができるのではないでしょうか。私の住む町でも65歳以上の人口の割合は3分の1を超えています。町の人口が減少していく中で、高齢者の人口はこれからも増え続けていきます。また、介護施設の数も入所する方も増えていきます。美容師でも訪問カットする方は当然いますが、カットと顔剃りができる理容師の方が髪と顔の両方を整えられるというメリットがあります。私も訪問理容をしていますが、うぶ毛を剃って蒸しタオルで顔を拭くととても気持ちいいと喜ばれます。
また、理容店に女性のお客様を呼びこむには、女性の理容師さんの技術や接客、サービスはとても大きな役割を果たします。話題も共通するものが多いですし、より親しみを感じてもらえます。男性のイメージが強い中で、女子の理容師の方とヘアスタイルの話や地域の話題などを通じて、女性のお客様にとって理容店がより身近な存在となるのです。
現在全理連では、ニューヘアでのレディースヘアの提案の他に、理楽TIMESでのショートヘアのカット技法や、女性が入りやすいお店作りなど女性客を取り込む様々な情報を提供しています。これからもレディースヘアのカットや、ブラシやアイロンを使ったセットの作り方などをどんどん発信してもらいたいと思います。私も理容組合が発信するレディースヘアの情報や技術を参考にしてお店の経営に生かしていきたいと思います。
結論
テレビや雑誌などのメディアでは、幅広い世代の女性のヘアスタイルをよく取り上げています。最近では高齢者の女性が10歳以上若く見えるヘアメイクをテレビで紹介していました。
ただ、製作に携わっているのは美容師の方ですので、レディースヘア=美容室というイメージがすっかり定着しています。しかし、10代、20代向けのメンズヘアカタログを見てもヘアスタイルを作っているのはほとんど美容師です。雑誌の出版社とのつながりもあるでしょうが、ヘアスタイルは美容師として学んだ技術でメンズスタイルを作り上げたのです。
理容業界がレディーススタイルに本格的に取り組み始めたと言ってもまだ足を踏み入れた段階です。美容師の方々も角刈りやアイロンパーマまで覚えたわけでなく、自分達で作ったメンズスタイルを提案して需要を作ったのです。そして、さらに幅広い年代のスタイルも打ち出しています。私達理容師も比較的入りやすいボブスタイルやショートヘアから始めて、数をこなしながら技術の幅を広げてお客様にアピールし、理容師の作るレディースヘアが定着していけるよう私も努力していきたいと思います。
参考資料
2017年消費者庁資料
経済産業省資料
理容統計年報
レジの前に送迎のポップを貼っています。
客待ちに女性のお客様の仕上がりの写真と施術内容を書いたフォトアルバムを置いています。