感動させるシャンプーで若者が来る
小野寺 真(宮城県組合)
私は思う。気持ちのいいシャンプーだけではなく、感動させるシャンプーが理容業界を盛り上げると。
理容師としてカットは勿論だ。髪質、髪の流れ、顔のつくりや骨格。 職業に至るまで総合的に考えカットする。伸びてきた過程をも考え、お客様の貴重な朝の時間にセットが簡単に収まる様に創る事を私は大切にしている。それと同じようにシャンプーは理容師の腕が試される。よく言われている。シャンプーが出来ないとカットは出来ない。シャンプーが良い理容師はカットもいい。まさにそれに尽きる。しかしカットが出来始めるとシャンプーが疎かになる。カットの付属品と勘違いしてしまいがちだ。シャンプーはせず風で飛ばして終わる。シャンプーに価値を付けられないからだ。それが仕事の形として良いとか悪いとか言う事では無い。
私は13年前師匠に言われて衝撃を受けた。初めての面接のとき、「あなたのカットの価値はいくらですか?」私の前のお店は3500円。カットのみなら2500円。シャンプーは?お顔剃りは?考えた事もなかた・・・だとすると・・・シャンプーは500円お顔そりも・・・500円私は言葉につまった。確かにシャンプーやお顔そりの価値をその時の私は考えたこともなかった。
今私は理容師として人の価値が一番高くなくてはならないと思っている。理容師の価値が安売りされる危機感。オーダーメイドで作っている素晴らしいカット技術。シャンプーやお顔剃りは癒しの時間。人の肌に触れ人と人とを感じお客様と共に作る時間。素晴らしい仕事を安売りしたくない。社会へのイメージ戦略作りもこれからしなくてはならないと思う。
近年AI、ロボットが色々なところで活躍しはじめ、人間が必要なくなることに危機感を感じる。言われたことだけやるのではAIやロボットに負けてしまう・・・理容師ロボットなんて出来たら恐ろしい。出来ない訳がないなんて言っていられないのだ。もしかするとどこかですでに試作品が作られているかもしれない。お金儲けだけ考えればそんな発想もするかもしれない。でもシャンプーの出来るロボットは、私は無理だと思っている。勿論理容師がロボットに代わることはさせたくないし、私が負けたくない。
私のお店には全国からシャンプーに来て下さるお客様が増えた。お客様の多くは言う。こんなに気持ちのいいシャンプーは初めてだと。その中には学生や20代30代の若者もいる。そして驚くのが理容のフロントシャンプーをしたことがない若者が多いのだ。シャンプー台を空けると驚かれる。その多くは産まれた時からお母さんに美容室に連れて行かれていると言う。それではやはり大人になっても美容室に行くものだと思ってしまう。バックシャンプーしか知らないのだ。気持ちのいいお顔剃りも知らずに・・・
勿論バックシャンプーも含めシャンプーの価値を上げるのは大切。でもあえて差別化し理容師として価値を上げたいのはスタンドシャンプーだ。
正直父が理容師でなければ理容師になろうとは思わなかった。理容師はかっこ悪いと思っていた。ダサい、厳しい、休みがない給料が安い・・・私の若い時のイメージはこんなもんだ。しっかり理容業と向き合ってなかった。色々経験し、師匠に会って理容業の技術の価値を知る。一人6000円の料金。日曜日休みスーツにネクタイのスタイルで営業しているお店が仙台にあることに驚いた。どうしてもその技、接客を覚えたい。きっと東京にはたくさんあるのかも知れないが・・・東京ではなくこの仙台で。床屋の3500円月曜休みの固定観念が壊れた瞬間だった!
独立して組合に入る前仙台で理容師として何かできないか?ひとり考えて動画を撮りSNSに上げてみた。
1960年代あたりから流行しているスタンドシャンプー。理容専門学校で習った基本的なシャンプー。座ったままでシャンプーすることに若者は先ず驚く。そしてこのスタンドシャンプーの理論を作った先輩方に私は脱帽だ。
シャンプーは頭部の皮膚および毛を清潔にしながら、快感を与える技術として行う。この過程における手指の操作、運行は軽擦に始まり軽擦で終わる。(理容理論より)その答えは私の考えは心と体の手当だ。歴史が物語るサインポールに由来する三色にも繋がる。
シャンプーは手首の柔らかさで回転させる。スピード・細かさ・頭皮をつかむフィット感・髪の上を洗うのではなく頭皮を洗うのが大切だ、力はいらない。一人一人の頭の形に合わせて指が飛ばないように頭皮を掴む。特に毛渦部のキツイ丸さもスピードを落さず細かく指が飛ばないように洗える事が大切。左右の手のスピード・力のバランスも大切。
スタンドシャンプーは技術者の体の位置が重要①耳後部(側頚髪際部)後方0度。小指から襟部に沿って耳後部に入り頭皮に小指と小指球を密着させ肘を絞りながら引いてくる。頭の形に合わせて体は大きく使う。②耳上部
後方0度・指を立て上から下に下げる耳に少しぶつかるように細かく5本の指を動かす。③耳前部後方0度・ せつじゅう部を洗う。指を閉じて小指、薬指、中指、母指は耳後部下襟部を肘から下すように優しく細かく洗う。
④天頂部後方0度・耳上部から天頂部までは肘で持っていく。天頂部から耳上部まで肘を下げてくるのだ。力でやろうとすると続かない。⑤側頭部(前額髪際部)後方0度・手の甲を立てる。頭皮を掴むイメージ。手首を引くだけ。⑥毛渦部後方0度でかかとを右に移動・毛渦の所を平行に膝の曲げ伸ばしで移動してくる。二の腕を動かしたら疲れてしまう。あくまで手首の回転だ。⑦左前額髪際部後方0度⑧前額髪際部左後方45度⑨右前額髪際部左側方90度・生え際を洗う。肘を天頂部の真上に置き体重を載せて手首を振る。指が飛ばないように。zを書く様に細かく。⑩後頭下部左前方45度・左手で額を抑え少し後ろに倒す様にして右手全体で頭の形に合わせて肘を引く。⑪右側頚髪際部左前方45度~後方0度・右手のひら全体を頭の形に合わせて肘を引く特に小指と小指球はしっかり⑫左側頚髪際部後方0度・指を立てて生え際を洗う肘を上げる。この一連の動作を右左変えて洗う。利き腕だけではなく左右同じ様に動くように練習する。このスタンドシャンプーは力で洗おうとすると疲れて続かない。力を抜いて手首の回転と肘の動き。それが出来るようにするには手首を柔らかくするストレッチとトレーニングが大切。私は毎日手首を90度にお越しおなかの前で手首を回している。きっと利き手ではない方は90度にはじめはならない。シャンプーは誰でも自宅でやっていること。でもひとつひとつに理論があり丁寧に技を磨くことで感動を呼ぶものになる。
それこそが職人の技。人間の価値を上げ、単価を上げるひとつだと思う。
私はフロントシャンプー、スタンドシャンプー、バックシャンプーの三種類の動画をユーチュブにあげたところから始まったのだ。理容室のシャンプーは気持ちがいい!理容師の技を見てもらうために。
私のお店に東京のTV局から取材協力の依頼があった。私のシャンプー動画を見て電話をかけてきた。初めは「怪しい」とさえ思った、何でわざわざ仙台の私のシャンプーに?
スタンドシャンプーに実況解説をつけたいと・・・初めは何を言っているか分からなかった。三本立て、脳梗塞のステント手術とピカソの絵、そして私のスタンドシャンプーに。スポーツ以外で実況解説をつけたら見る目線が変わる!。でも何で私のシャンプーなんですか?プロデューサーは「あなたのシャンプーは綺麗でした。格好がいい、気持ちよさそう」なのが伝わってきました」と。私は基本を忠実にやっているだけ・・・「面白くなりますよ!!」私は考えもつかなかった。東京で放送され視聴率も良く東北でも放送された。92年世界チャンピオンの先生が解説を務めてくれた。有名な先生に観てもらえるとは。夢のようだ。(後に先生がウイングに来て下さりスタンドシャンプーをして、感動する気持ちいいと言ってもらえた) 見て頂いたお客様の反応もとてもいい。それをまたSNSにあげる。すると再生回数があっという間に1万再生になり現在は45万回再生なのだ。まだまだ伸びて行く。インバウンドも考え英語と中国語もこれから作る予定だ。そこにコメントが来る。その多くのコメントは「気持ち良さそう」「体験したい」「眠る前にみてます」 「今度行きたいです」 「癒されます」「理容のシャンプーいい」 床屋冥利につきるコメントが多い。嬉しくてたまらない。自己肯定感も上がる。そして現在に至るまで全国からお客様が来て下さるようになる。東北は勿論、遠くは熊本、名古屋、神戸、から来てくださる。神奈川からは毎月来て下さるお客様もいるのだ。それも20代から40代の若い層のお客様だ。正直来るコメントは「笑える」とか実況の面白いことへのコメントが多いと思っていた。しかしシャンプーそのものに興味を持って下さる方が多いのだ。実際にお客様が増えているのは確かだ。
この時代若者はスマートフォンを持ち歩きSNSは当たり前。それを使わない手はない。
突拍子もない意見に感じるが、違う角度から見る理容は若者を引き込む!わが支部の仙台刈りギネスチャレンジもその一つだ!そのチャレンジを知り私は組合に入ることにした。昨年は私も実行委員として参加した。
組合の先輩方には本当に理容の素晴らしさを教えてもらっている。
こんなに反響を頂いたのだから使わない手はない。理容を盛り上げて行くためにはTVやSNS、の力は大きい。日々の生活の一部になっている。理容師がドラマやCMなど常に生活の中にあるように何かのストーリーをつけて毎日放送するなど若者に理容業を刷り込むことが大切だ。ちょっとしたシーンに理容のシャンプーを入れたり、お顔剃りのシーンを入れたり。 実況解説の様に角度を変えてお笑芸人理容師なんて言うのも今の時代必要だ。インパクトは大切。シャンプー選手権があってもいい!!それと同時に若者は癒しを求めている。そこは私達の技術で癒せるのだ。カットは気持ちよくはない。シャンプーやお顔剃りは気持ちがいいのだから。癒しには十分効果はある。そのシャンプーの技を少し見直して質を上げるだけでお客様は単価を払う。「気持ちのいいシャンプー」から「感動するシャンプー」へ。理容の単価を下げるのではなく100円でも上げて行けるようにしたいと私は考えている。
こうして理容の技術を向上していくとお客さまの反応が違う。もうお店から離れなくなる。「感動した」と言われたら理容師としてのモチベーションも上がる。仕事にやる気もおきる。今は理容の仕事が大好きになった。理容の仕事の良さをもっと知ってもらいたい。私の父は最近組合から60年理容業を行ったことへ表彰して頂いた。とても喜んでいた。82歳現役の父は言う。「組合や理容業界へどうお礼しようかな」その歳でもそんなことを考えているのだと驚いた。私の人生よりも長い時間理容師を続けている父を尊敬する。そう思えるようになったのも理容の技を磨くことに向き合う事が出来たからだ。師匠、組合の皆さん、そして父。が今の私を成長させてくれた。この論文を書く事で理容をもう一度考えて。私もスタンドシャンプーを通して次の世代へ理容師の技ってかっこいいと伝えて行けるようにこれからも洗い続けて行きたい。(笑)