ヨーロッパ文明は、ナイル川流域のエジプト文明と、チグリス・ユーフラテス川流域のメソポタミア文明から始まりましたが、エジプトがナイル川流域に建国された頃(紀元前4000~300年)には、鋭く砥いだ燧石やかき殻などでヘアカットやシェービングといった理容の仕事が行われていました。
当時は、「善と悪の精は頭髪を伝わって出入りする」という迷信があったため、ヘアカットは悪の精を追い出す意味合いが強かったようです。したがって、理容の仕事は宗教的儀式のもとに行われ、理容師の仕事は僧侶と薬学者が兼ねていたといわれています。
ローマ時代(紀元前500年~西暦500年)になって、ローマの勇者パブリアス、デイニロス、メナスの3人がギリシアを征服した外征の帰路、地中海の中にあるシシリー島に立ち寄ってみると、そこにはエジプトから移住した理容師がいました。そこで、戦いにまみれた顔を剃らせたところ、実に気分が良かったため、その理容師をローマに連れて帰り、バーバーをやらせた……これがヨーロッパでの理容業のはじまりといわれています。紀元前296年のことです。
やがて、ローマ帝国は最盛期を迎えますが、各地に生まれたブルジョアの高級なお抱え理容師を「トンソーネ(tonsone)」、街中の一般の理容師を「トンソール(tonsor)」と呼んだそうです。
ちなみに、理容を意味する英語の「バーバー(barber)」、ドイツ語の「バルビール(barbier)」は、ラテン語「バーバーbarba」からきた言葉であるといわれています。