令和5年度業界振興論文・奨励賞

 

組合力を活かした理容師コミュニティの未来
~青年・女性部活動を通して~

高宮 聡子(山形県組合)

 

はじめに

 私は現在、高齢化と人口減少が加速的に進む地方都市で理容室を家族で営んでいる。所属する組合も支部も、高齢化と若年層不足が深刻で、支部においては組合員数において10年前の約30%まで減少している。我ら60歳以下の理容師は40%に届かないという危機的な状況である。
 しかしこの世代の理容師は、1980年代以降にこの業界に入り「失われた30年」と呼ばれる平成の不況とデフレ時代を経て、コロナ禍を乗り越えたいわば精鋭であると自負している。この少数精鋭の現役世代とさらに貴重な次世代の理容師が、生き生きと幸せに活躍できるよう、そしてそのエネルギーを未来の組合に活かすためにも、各方面の改革は待ったなしと言えるであろう。
 一例ではあるが、私が組合青年・女性部の仲間と共に活動しているカラーチューブリサイクルボランティアや、全国の理容師たちとの交流など、組合内外の活動経験を元に「組合力」を活かした理容師コミュニティの未来を提言したい。

 

1、組合青年部・女性部のこれまでと現在

 組合青年部・女性部は1980年代ごろ組合員とその家族や従業員といった、組合加盟店に従事する理容師の交流の場として各地で生まれ自主的に活動し始めたという。世の中は高度成長期を経ていよいよバブル期に入った頃で、若い理容師を中心に、レクリエーションや講習会など、その活動と交流は全国規模にまで発展したと先輩部員の方々は語る。その活動目的は部員それぞれによって異なるが、店や家庭を離れた場での仲間との活動は、楽しみであり学びでもあり気分転換や情報交換の場として有意義に働き、営業に還元されてきたと考える。その存在は小規模な事業者である我々にとって貴重なスケールメリットの一つである。
 しかし先にも述べたように高齢化と組合員の減少などで活動休止や廃止を決めた支部も増えている。細々と少人数で活動を続けている支部や地方組合がほとんどではないだろうか。年齢が若いほど個人を第一に優先し組織を離れる傾向にある上、「青年」「女性」といった画一的な区別も古く、ジェンダーレス化という時代の流れに合わないのかもしれない。支部のカラーや価値観に合わず、組合そのものを脱会してしまうという残念な話も多く聞こえてくる。

 

2、カラーチューブリサイクル活動

 始まりは各地組合青年・女性部の代表によるブロック会議で顔を合わせた際、SNSでメンバーがつながったことで、その後定期的なオンライン会議がもたれるようになったことがきっかけだった。ある地方の組合が取り組んでいる、カラーチューブリサイクル活動をブロックという「広域」で取り組んでみてはどうか、という意見が出された。ヘアカラー剤の使用済みアルミチューブ容器は、ゴミとして廃棄されていることがほとんどだが、リサイクルアルミとして再生可能であり、リサイクル業者で換金してもらえる。その収益で購入した車いす等を寄付するという社会貢献活動をしている団体もあるが、我々は組合による「医療用ウィッグ」への取り組みを活かし、小児の病院に医療用ウィッグを寄贈することを目指した。計画会議や連絡、情報交換・情報共有はほぼオンラインで行った。各店各支部各組合で少しずつ集めたカラーチューブは、ブロック全体で500kg近くになり、換金し寄付金も加え地域の小児病院に4台のウィッグを寄贈することが出来た。たった半年間だけで驚きの結果になった。微力を集め理容師らしい取り組みで、社会貢献できたことがとても嬉しかった。

 

3、カラーチューブリサイクルを通して見えたこと

 「塵も積もれば山となる」のごとく各店から提供された、わずかずつのカラーチューブは大きな結果を残した。一人では1サロンでは到底できない、組合だからできたことである。これぞ組合のスケールメリットである。カラーチューブの山はそれを可視化したように感じた。さらに言えば、カラー剤をしっかり絞り切るということも、サロン経営において1グラムをも無駄にしないというコスト削減意識を高めている。そして理容組合で集めるカラーチューブはしっかり絞り切っていてきれいとなれば、社会的な信用にもつながる。環境に配慮することをヘア産業全体の取り組みと捉え、全国各地で理美容室やメーカーが連携すれば、すばらしいSDGS活動に発展するのではないだろうか。
 一方、リサイクル業者や地域によりカラーチューブの買い取り価格が大幅に違うなど、行政や関連業界への働きかけが必要な案件もあり、組合でなければ調整できないような課題があるということにも気付いた。

 

4、青年部・女性部を見直す

 この活動を通し広域での話し合いの場、交流の場が増えたことで青年部・女性部の新たな課題も見えてきた。元々が各地で自主的に活動を始めたコミュニティであるので、いざ広域での活動となると、資金繰りや各地組合との関係性や役割などに大きくバラつきやがあり足並みを揃える難しさがあることが分かった。
 反対に青年部・女性部が協力することにより功を奏したことも多かった。男女共同参画による成果というものであろう。男女というより、それぞれの個性や特性を認め合い、アイディアを出し合い企画に活かすことが出来た。ポップやイラストが上手い人、対外機関との交渉に長けている人、会議の進行が上手い人、フットワークが軽い人、リスクに気づく人、それぞれの多様な能力が際立った。考えの近い人だけが集まっても、偏りが生じ上手くいかなかったはずだし、男性だけでも女性だけでも上手くいかなかったと思う。
 現在は会員数の減少から青年部・女性部の活動はほぼ一緒という地域も多い。前述した各地でのバラつきや多様化に対応するためにも、スケールの大きい組織、すなわち、組合主導で、今ある青年部・女性部を活かし、男女共同参画を柱にした「新たな理容師のコミュニティ」を再構築する時期が来ていると考える。

 

5、組合外の同業者との交流

 かつては男性の調髪が主なサービスだった理容室も多様化し、様々な業態が現れるようになり久しい。顔剃りに伴うエステやメイク、顔だけにとどまらずBBエステなどの全身トリートメント、女性のヘアスタイリング、フェードやアイロンパーマなど多岐にわたる。それらサービスを提供しているのは理容室だけではない。美容室はもちろんエステサロンやリラクゼーションサロンも同業者といえる。
 専門性の高い技術サービスを提供する理容業以外の同業者との交流や情報交換は、各店のサービスを高めてくれるはずである。
 私もエステティックスクールで習得した技術をサロンに導入しているが、同じ技術を提供するエステシャン仲間との交流や学びは大いに刺激になっている。
 また全国の女性理容師が集うネットワークにも所属しており、組合に加盟していない店の理容師とも交流している。彼女たちの中には、自由で斬新なアイディアを持つ若い人も多く、業界の新たな可能性を感じることが多い。さらにその中には組合の講習や事業に参加したいが、就業先の店が加盟していないことには不可能だという人もいる。店舗所在地の組合支部の旧態依然とした古い体質に我慢できず、組合のメリットは充分理解しているのに脱会した人もいる。そのような若く前向きで能力の高い人材が、組合の外で潜在したままなのは非常にもったいないと常に感じている。

 

6、ICT活用は不可欠

 ここでICT活用について述べたい。私は機械や、インターネットは得意な方ではない。時代の変化の速さに戸惑う一人である。しかしながら、広域の仲間たちとの交流は、ICT活用なしにしては成り立たない。各地の組合や支部を超えた青年・女性部の活動も、全国の女性理容師たちのサークルも、エステシャン仲間との交流も、オンライン会議やSNSありきである。このたびの新型コロナウィルの感染拡大では、サロン経営においてもその必要性はさらに高まった。
 各地の組合では役員の方々のご努力により、公式SNSなどを設立し情報の発信が始まっているが、多様化に対応するには全理連規模のスケールが必要である。組合のさらなるDXを切望する。

 

7、まとめ

 組合は「理容室オーナー」の組織である。その発展のためには、従事する「理容師」が幸せに活躍することが大切である。逆もまた同じで、「理容師」が幸せに活躍するためには、唯一の業界団体である組合の発展が不可欠である。
 今こそ、組合の力とスケールを活用した新たな理容師のコミュニティ再構築が必要である。組合員、組合従業員はもちろん、一定の条件を設けて組合加盟店以外の理容師や理容学生が参加できる仕組みや事業も必要である。支部や地区を超えた広域での連携や再編も必要である。専門性の高い理容師以外の同業者との交流、ヘア産業全体で取り組むSDGSへの挑戦も必要である。男女共同参画やDXを進めることが様々な課題の解決を助けてくれることは間違いない。
 今後とも組合のスケールメリットを活かし、多くの仲間と交流を深めることで自らの経験値を上げ、サロンを繁盛させ、社会や組合に貢献できるような理容師を目指したい。


 

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