高齢社会に対応した訪問福祉理容の確立について
≪時代の変化に対応した政治との関わり≫
糸田泰典(和歌山県組合)
目次
【序論】
今日までの理容業からの脱却と今後の後継者育成・キッズ客の集客と展望について
【本論】
福祉理容やNPO法人など、新たな利益が得られる福祉事業展開について
【結論】
NPO法人を通じて時代に対応した、これからの理容組合の活動について
【序論】
今、国内においての少子高齢化率は急激なスピードで進んでいる。
総務省の調査においても、平成26年2月1日現在(概算値)の総人口は1億2718万人で、この中における高齢者の占める割合は、24.1パーセントで過去最高となり、いわゆる「団塊の世代」が65歳に達し始めたことで、65歳以上の人口は3000万人を超え4人に1人の割合まで進んでいる。
我々の理容業界においても、高齢化は同様に進んでいる。それとは逆に、近年において若い理容師の新規開店も減少の一途を辿り、全国の理容学校への入学者数も減少していることも分かっている。これは少子化が一つの要因と考えられるが、職業の選択肢が多岐にわたり増えたことも理由の一つだと考えられる。
理容業界の低迷理由は、近年の後継者不足や、業界の高齢化も進み、若いお客様が理容店から美容店などへ移りつつあることも要因の理由だと思われる。
我々はこれからいかにして、特に若いお客様に理容店へ目を向けて、足を運んでもらうことができるかを早急に検討する事が必要不可欠である。
私は早急に後継者育成に力を注ぎ、若い理容師を育成することで、必然的に若い理容師の友人や知人等、子供たちも含め若者たちが来店してくれるのではないかと考える。
我々も今、手をこまねいている訳にはいかない。一例のアクションとして、美容店では出来ない理容師の匠の技である剃刀を使った「シェービング」を前面に打ち出し、今までにもPRして来た「レディースシェービング」の様に、美容店でカットをしている若い男性達に向けた「メンズシェービング」をPRすることも一つの方法ではないかと私は考えている。まずは、シェービングの心地良さを理容店で体験をしてもらうことにより、理容店の技の見直しも出来てくるのではないかと私は思えてならない。また、低年齢層の子供たちの集客には、昔、清水健太郎が一世風靡し、理容業界に活力を与えてくれたパンチパーマの代名詞にもなった「健太郎カット」のように、一例として「・・・戦隊カット」などの代名詞を用いて子供たちが一目で興味を持ち、理容店に通ってもらえることからスタートするのも一つの提案としたい。
上記のように若者の集客方法も最優先であることは確かではあるが、日本の高齢化現象は、数年後には総人口の約25%が高齢者となり、15年後には約30%までにも達っしてしまい、本格的な高齢社会へ突入すると予測されており、我々の理容業界も同様に進むであろうと思われる。
我々は今の間に、社会の年齢構成の変動と流れを的確に把握し、わずかな意識改革を行うことで、幅広い年代層の経営者達に長い年月の間悩み続けている低料金店の問題などと近年、全国理容生活衛生同業組合連合会が提案して推奨している「福祉理容」や「全国理美容NPO法人」など、新たな利益が得られる福祉事業展開と低料金店問題の2点について提案したい。
【本論】
まず、我々の理容業界の歴史は、全国理容連盟として昭和22年5月に設立され、昭和32年11月より全国理容環境衛生同業組合連合会、平成13年1月より全国理容生活衛生同業組合連合会と名称を変更し、この66年間という長い道のりを幾多の問題を乗り越えて来られたのである。
(以下、全国理容生活衛生同業組合連合会を連合会と表記)
最初に現在も悩みの種となっている料金問題の一例から取り上げたい。
その内容は、業界の統制料金が解除され、生活安定の兆しが見えるようになって2年目の昭和29年、大阪の淀川地区において低料金店とのダンピング騒動が勃発したことである。当時150円~200円が適正料金であったが、80円という低料金店が出現したことにより、周辺の店もダンピング騒動に巻き込まれ、組合員達がデモを行ったことで低料金店側より威力業務妨害などで告訴されてしまった。その責任を追求された当時の大阪の井手藤一氏(元大阪府連理事長・全国理容連盟副理事長)が統括責任者とされたため、警察に拘留され、釈放後に自宅にて自らの命を絶たれた。その時、組合員達に「業者自ら墓穴を掘るなかれ」の辞を残されたと伝えられている。
その後、料金競争の重大性が多くの国会議員らの中にも認識され「大いなる決断を求められた時代」があった。
理容師法制定は大阪の事件の3年後、昭和32年5月19日午後11時45分深夜の国会で環衛法が成立し、理容業界を揺るがしたと言われている。当時の決断は連合会の多くの役員たちが一生懸命、国会陳情に取り組んでくださった事が効を奏した結果だと私は思う。
先日より、連合会の理政中が国会議員に対し「高齢社会における訪問福祉理容(出張理容)への要望」の提出なども行なってくれていることも耳にしている。
我々の諸先輩方が今まで守り通してくれたお陰で、右肩上がりの豊かな生活が出来ていた。しかし、今は不況の中でかなり厳しい状況下にあると思われる。あえて、こんな時こそ、今度は我々が「今日という日が明日もある」という安易な気持ちではなく、一人ひとりが未来の後継者のために責任・使命・自覚を持って取り組まなければならない時だと提案したい。
次に、全国理美容NPO法人設立に伴い、推奨されている「ケア理容師」「訪問福祉理容師」などの資格取得も考慮し、高齢者施設などへの出張理容に繋げて行く事が、今後、我々の一番の要となり得るのではと私は想定している。
これからもこの日本において、序論でも述べたように高齢者人口は更に進行することは確実であり、近未来を見据えた連合会の打ち出した対応は、素晴らしい判断であり、私も同感である。
当店においても平成17年頃に、高齢社会への対応として「ケア理容師」の資格を、後に「福祉理容師」の資格も取得し、地域の高齢者向入居介護施設やデイサービスを行なっている施設など、出来る限り多くの施設への働き掛けを行なった結果、何ヶ所かの施設と調髪の契約を交わすことが出来た。それらも今では固定した収入源の一つとなっている。
この出張型の福祉理容を継続してきたことにより、施設の従業員の方や家族の方々にも店に足を運んでもらえるようになり、この様な展開から新規顧客の開拓が出来たことは、前向きな取り組みを行なってきた結果であると考えている。おかげ様で当店では、不況のあおりも少なく乗り切れている。
このようなことから今後、各組合は連合会が設立した非営利団体「全国理美容NPO法人」の会員として、この組合員を支えるための組織を有効利用し、今までに無い新たな利益が見えてきた一つの営業支援について提言したい。
【結論】
以前までの我々の組織、すなわち連合会は自分達を守る事を優先にした活動のように私には感じられていた。しかし、これからはお客さまの事を優先に考えた組織活動をしなければならない時代が目前まで来ているのではないかと考えている。
その中で、まさに連合会が「全国理美容NPO法人」を中心として進めている福祉理容に関する事業の中で、介護認定者への理容料金の助成金制度への取り組みもあり、このような事を挙げてもお客さま目線を優先に考え出したことは素晴らしく、今の時代に則した発想の転換になっていると感じている。
まず、これらのことを踏まえ最優先事項とし現実の物となれば、高齢者の方々は勿論、全国の多くのお客さま方にも喜んでもらうことができ、最終的には我々にも新たな利益を生むことが出来る事業になると思う。
これから我々は、少しの発想の転換を行いつつ先人が築いてこられたことを糧とし、いかにこの組織が少子高齢社会の中で理容という職業を通して地域社会に貢献することにより、「信用と安心」を得られる組織運営を行っていかなければならないかと強く感じている。
当店も老人福祉施設などへの出張理容を始めて約10年になりますが、当初はこの様な事業への参入者は限りなく少なかったが、今では前向きに取り組む理容師が多くなって来たことが実感できて来た。
入所者も高齢化が進み短期間に増え、入所待ちの方たちも居られる状況になっており、入所者、通所者の方たちの調髪は、美を装い衛生保持を確保するための必要不可欠性の高い業務であることは勿論のことであり、我々の理容業側においても重要な事業になって来ていることは間違いないと考えられる。
今後、この様なことを踏まえ、連合会が立ち上げた「全国理美容NPO法人」が推進している福祉理容の必要性と実績に更なる厚みが増せば、厚生労働省が行なっている介護認定者へのオムツの助成金制度などと同様に、理容料金の助成金制度が受けられる可能性も見えてくるのではと考えられる。そうなれば双方にとっても互いに喜ばしいことである。
先日、理楽TIMES462号に掲載されていた記事に、厚労省より課長通知で訪問福祉理容はサロン開設者がふさわしいとの内容が書かれていた。この様な事が出来ているのも連合会と国会議員との緻密な連携による厚労省への働きかけが実を結び、利用者の安全と安心を守ることができているのである。
今後、高齢者の公衆衛生に資する観点から未来のありたい姿の実現に向けて、理容業の安定のための、介護保険への参入に取り組んで、高齢者の安定した生活と組合員の営業権を守ってもらえるように願いたい。
上記で述べた事を踏まえ、我々は過去を振り返ることも大切であるが、この先我々がどのように進むべきかが問われる時である。
この様な時こそ、禅の言葉に「把手共行(はしゅぎょうこう)」というのがある。自らの清い心と手を取り合い共に生きて行くという意味である。苦しい環境におかれた時にこそ助け合い、気持ちを一つにして英知を出し合い、互いに支え合い伝え合う時だと思う。
今年に入り消費税が3%アップしたが、更に2016年にも2%アップされるということを考慮しても、理容料金の値上げをするか否か、また値上げをするとしても、どのタイミングでするのかも困惑しがちである。
今、安倍首相が提言されている成長戦略の「アベノミクス」デフレ脱却などを発言されているが、当店も多少ではありますが、今まで通りの「待ちの仕事」から脱し、更に視野を広げて訪問福祉理容などの「攻めの営業」への転換を図ったことにより、高齢者の方々への「快適な暮らし」の手助けができ、売上げアップに繋がることも実証できた。
この一地方の小さな理容店が少しの意識改革により、不況の波の中でも頑張っていることが全国の理容組合員に波及する足掛かりとなり、何らかのウエーブの始まりとなることを期待したい。
最後に、このような現状をしっかりと把握し、理容業を魅力ある業界に作りあげていくのは他の誰でもない、現在の私たち業界人であると私は思う。今こそ、理容という誇りある匠の技を継承し、職に対するプライドを持ち続け、組合員一同が共存共栄を掲げて強い絆を発揮することで社会に適応し、幅広い多くの人々から「心からの笑顔」をいただき、心から喜んでもらえるように努め、理容という職業を通して地域社会に貢献できるよう、社会から必要とされる組合作りを目指すことで、大衆理容店や低料金店との格差を明確にし、今よりも一層強固な「全国理容生活衛生同業組合連合会」となることを願い、私の提案とさせていただきます。