災害時における青年部の行動の検証とこれから
グループ名:近畿協議会青年部(代表者:米山集人・滋賀県組合)
目次
序論
青年部の災害対策指針
本論
① いくつかの災害を経験して
② 青年部の災害時行動
③ それに伴う反省点
結論
これから
序論 青年部の災害対策指針
最近の日本国内での災害は、大きな災害が多く、特に東日本大震災はかつて経験したことのない大災害であった。我々はその震災時や他の災害の際に経験した災害対策を振り返り、今後の災害発生に備えた対策を策定し、全理連との連携を唱えて行くようにしたい。
この論文を作成するにあたって、全理連に確認したところ、現在全理連では災害対策マニュアルというのは存在していないそうである。
指揮命令系統がはっきりと構築されていない現状では、各組織がバラバラに活動してしまい、全体の活動に支障が出る場合がある。この論文は過去の災害時の活動を検証し、災害対策マニュアルの制定に全理連と青年部が連携して行う事を目標とし、努力する事で今後の支援活動を迅速にしていきたいと考える。
本論
① いくつかの災害を経験して
二〇十一年三月、東日本大震災が発生した。阪神淡路大震災とは異質の災害に日本中が震撼した。私達は普段から「人として何が出来るか」を考えながらそれぞれの災害に対応し、被災地へ支援している。もちろん大震災のような大きな災害だけではなく、水害などの災害にも対応してきた。しかし、過去に経験したことのない未曾有の災害として東日本大震災は私達に教訓を与えた。その被害状況と支援活動と支援内容は、平成二十三年度の全国理容生活衛生同業組合連合会事業報告書の前文に以下のように記されている。
『被災地における組合員及び家族の死者・行方不明者六十五名、組合員店舗の流失・全壊五百三十八店、半壊・損壊五百五十七店、原発事故による避難百二十一店という未曾有の被害を業界にもたらした。連合会では被災地の窮状に早急に対処するため、(中略)被災組合員に「訪問理容キット」一式(三百五十セット)を提供、被災者に対する訪問理容支援事業を展開した。さらに、中小企業基盤整備機構が実施する仮設理容店に「簡易理容椅子・簡易洗髪設備」(二十セット)を設置し自立復興へ向けた拠点作りをめざした。同事業は国の生衛関係営業対策補助金事業として認定され、被災組合員の自立へ向け大きな前進となった。その結果、全国から集まった義援金は八千四百万円を超え、補正予算を組んで対応した連合会の災害見舞金および国からの支援を合計すると、総額二億一千三百万円を超える被災組合員に対する自立支援事業を展開することができた。この他、震災ボランティア活動をはじめ、各組合、団体、商社、個人からの理容器具の寄贈等、多くの善意が寄せられた。』
と記述されている。昨年、全国青年部代表であった私も、震災から一年後の被災地の状況を視察するため訪問した。宮城県に野蒜という地方線の駅があるが、現在でも壊滅状況にあり、その駅舎跡の横に理容店が存在していたが一階部分は骨組みだけである。
また、福島県貝山地区の避難所には仮設住宅の一角で経営されている組合員もいてお話を伺った。避難所でなんとか営業活動を再開するにあたり、理容椅子などの備品など防護服を着用しながら避難区域の店舗から持ち出したそうである。福島県では未だに放射能の恐怖に晒されており、福島県全体の理容店でも顧客の流出、雇用の確保の難航が予測され、今後の営業活動において暗い影を落としている。
しかし、各県組合はいろいろな方策を練り、被災地の組合員の営業再開、復職に尽力している。また全理連もその被災地の組合と連携し、支援を継続しているのは言うまでもない。
② 青年部の災害時行動
阪神淡路大震災以降、私達全国の青年部は災害時の支援活動を考え、平成二十二年に全国青年部の神田秀人代表(当時)が青年部の組織強化運動の一環として災害支援一覧表を策定した。
この災害支援一覧表をもとに、災害等が発生すると全国の青年部が素早く対応できるようになっていた。この災害支援一覧表は現在でも支援物資の内容などを変更しつつも、きめ細やかな対応が出来るように見直しが図られ、活用されている。しかし、東日本大震災は災害のクラスとしてはかつて経験したことのない災害であり、全理連ビルでもかなりの損傷を受け、補修しなければならなかった。
大震災発生直後から、東京都の山﨑裕介全国青年部代表(当時)も被災し、連絡が取れない状況が続いた。震災当日の午後八時三十九分、全国青年部が使用していた掲示板がサーバーダウンで使用不能となり、急遽広島県の岡本幸蔵副代表(当時)と次期副代表候補の私(当時)の西日本在住の幹部が全国への支援活動の中心となり、活動を開始した。掲示板も当面の措置として西日本のサーバーを震災当日に立ち上げ、仮復旧した。当時の災害支援掲示板には全国の青年部員が書き込み出来るような体制を敷き、安否の確認をまず行い、次に連絡が取れるようになった被災県から被災状況の聞き取りを行った。そして、津波で店舗や住居が流された彼らの求める支援物資、例えばハサミやクシなどの理容道具の要請があり、中古品でも結構との言葉から、急遽その要請に答える事とした。まず、全国各青年部がストックしているものだけを勝手に送るのではなく、幹部がキチンと支援物資の割り振りを行った。
なぜそのような割り振りを行ったかと言うと、統率なく物資を送れば被災地に同じ物資が送られる事となり、被災地に迷惑が掛かるからである。事実、以前の災害時には恥ずかしながらそのような事が起き、大変なご迷惑をお掛けしたのである。その反省に基づき、各県青年部が幹部の割り振りの指示に従い、支援物資の送付作業を開始した。震災から、わずか一週間足らずの出来事である。このように、災害時の初期活動は全国の青年部がいち早く活動を開始出来る。その素早さは普段の準備体制の良さ、きめ細やかな情報の把握、確立化された支持命令系統などにある。
③ それに伴う反省
もちろん支援活動において褒め称えられる事ばかりではない。むしろ反省点もたくさんある。それを検証しなければ今後の災害支援活動に支障が起こってしまうのである。まず、各単組において組合と青年部との意思疎通がうまく働いていないところがあった。その事で、被災地に支援物資を送れないという事態にも遭遇した。今後は支援活動の一環として各県組合と連携を取り、そうした災害時に素早く対処出来るようにしておきたい。そして支援した理容道具類の中に明らかに使用不可能なものも多少混じっていたそうである。
これらは発送時に厳密にチェックしていれば防げた事案である。また、電磁式電気バリカンであるが、西日本と東日本とでは電力の周波数が異なるため、使用出来なかったと聞いた。そして、理容道具の支援という要望にも関わらず、毛布や食品などを集めてしまった青年部員もあると聞いた。確かに必要な物資かもしれないが、我々が行う災害支援は理容の業に関係するものに特化した方が良いと思われる。なぜかと言うと、それらは行政が行っていて、支援を受ける被災者のニーズも刻々と変化するからである。それに対応しようとすると大変な労力と資金が必要である。
行政に任せるところは行政に任せた方がスムーズである。このような未曾有の大震災において、普段から関係各所への連絡を密にする事が、今後の支援活動を円滑に行えると痛切に感じた。それは全理連が行う支援規模の大きさである。全理連の平成二十三年度業務報告書の本文には以下の記述がある。
四月二十二日には厚生労働省健康局生活衛生課長通知が発表され、(中略)連合会では、国の補助金事業である「平成二十三年度生活衛生関係営業対策事業」として、二千四百二十五万五千円の国庫補助金を受け、下記の事業を展開した。
(1)実施内容
①岩手県、宮城県、福島県の被災組合員(従業員を含む)に対して訪問理容キット一式(カット・セット用具、シェービング用具、化粧品、消毒剤 他 三百五十セット)を提供し、被災組合員の自立支援事業を展開した。
②同事業の趣旨を周知させるため、被災地域の組合員および関係商社等を対象に、同事業の詳細を記載した「理楽TIMES」特別号(部)を配布した。
③中小企業基盤整備機構が実施した仮設理容店舗に「簡易理容椅子・簡易洗髪設備」(二十セット)を設置し、被災組合員の自立復興へ向けた拠点作りをめざした。』
このように全理連が行う支援は私達の支援とは違い、もっと大きな組織力を生かした支援活動である。私達が行う活動はあくまでも初期活動の支援である。中長期的な支援活動は全理連が行うのが最も相応しいと認識している。例を挙げると、初期には中古の理容道具が必要で、時間が経過するとともに、全理連が用意した新品の理容道具や見舞金などが必要なのである。しかし、東日本大震災でタオルの要請があったのは実は思わぬところからであった。ある県組合に被災地に向かう警察本部から捜索したご遺体を綺麗にする作業で必要であるのでお願いしたいとあったそうだ。これは理容店への災害支援ではないかもしれないが、普段のストックが役立った例である。もっと細かい支援活動の例を挙げると、特に水害発生時には初期は古タオルが必要である。なぜなら店舗の復旧作業で大量の雑巾等が必要だそうである。あとは店舗再開後に必要な新品のタオルである。近畿青年部では各県青年部の支援物資以外に、昨年フットサル大会の開催時に新品のタオルを持ち寄り、四百枚のストックをしている。どこかの災害で要請があれば瞬時に発送出来る体制である。
結論 これから・・・
東日本大震災以降、水害などの支援も行われている。これから発生が予測される南海トラフ地震など、災害はいつ起こるか誰にも知りえない。しかし、災害に備える事で、心にも余裕が出来、豊かな生活が過ごせるのである。序論でも述べたが、全理連には現在独自の「災害支援マニュアル」は残念ながら制定されていない。私達は全理連と連携し、「全理連災害支援マニュアル」を早期に制定して全理連、いや理容業が災害に備え、防災意識を常に持っている事を対外的にアピールし、理容業の素晴らしさをお客様に知って頂く事が必要なのではないだろうか。少子高齢化が進む世の中で、理容業も従事者数が年々減少している。しかし策はあると思う。「共に理容の未来を考える」、その一端を行動力のある若い青年部が担えるような将来は近いと感じている。
参考文献
平成二十三年度業務報告書 前文 (全国理容生活衛生同業組合連合会 発行)
平成二十二年度全国青年部災害支援一覧表 (全国理容生活衛生同業組合連合会青年部監修)
写真二枚 (著作権保有者 米山 集人)
平成二十三年度業務報告書 本文 (全国理容生活衛生同業組合連合会 発行)