「生き残る為のサロン経営」
~経営理念に込めた思い~
グループ名:ヘアースタジオC4(代表者:池田 正男 滋賀県組合)
目次
序論
資料①[マンダラチャート]
①自身の後継経験から学んだ<<経営理念と行動方針>>必要性と有効性
資料②[自店の経営理念と行動指針]
②後継者=人材を確保・育成する為の二提言
提言①人材に選ばれるサロン環境作り
資料③[月のメッセージ]
提言②お客様に選ばれ続ける人材育成
資料④[選ばれ続ける相関図]
結論
序論
昨今の様々な社会情勢を受け、《存続し発展する》モノと《衰退し消滅する》モノが明らかになる中、理容業の衰退が危惧されています。(資料①)問題は多々ありますが、生き残るサロンを作る事が理容業を存続させ発展させる一つです。ヒントとしてはダーウィンの進化論「強いものが生き残るのではなく、環境の変化に対応できたものが生き残る」があります。これを理容業に置き換えて考えると「技術が上手い者が生き残るのではなく、お客様の要望の変化に対応できた者が生き残る」と言えるでしょう。
では、存続し発展させるにはどうしたら良いのでしょうか?技術が上手いからと言って、お客さまが来てくれる時代は終わりつつあります。社会の成熟に伴いお客様の要望が変化してきたのです。技術が上手いのは当たり前、他にどんな事で「満足させてくれるの?」と、お客様の要望や期待の変化は、どんどん加速していきます。それらに対応し、お客様の不満を解消し、要望を満たす事が生き残る術です。ただしどんな繁盛店でも、後継者がいなければそのサロンは消滅します。だから《後継者=人材の育成》をする必要があります。
自身の後継経験から、先ず《夢》を明確にする為に、《理容とは?理容師としてどう生きるのか?》だから《どういうサロンにするのか?》を考え、具現化する為の『経営理念と行動指針』を作り⇒掲げ⇒実行しました。しかし、この事を実行し、お客様を満足させ、笑顔で感謝して頂き、期待され選ばれ続ける人材が育つサロン環境が整っていなければ続かない事に気付きました。
この論文では、《選ばれて生き残る》をキーワードに【①自身の後継経験から学んだ“経営理念と行動指針”の必要性と有効性】【②後継者を確保・育成する為の二提言】について述べさせて頂きます。
資料①[マンダラチャート]
①自身の後継経験から学んだ
《経営理念と行動指針》の必要性と有効性
1957年、実家の理容室を手伝っていた私の父は、四男坊だった事もあり、独立開業し、経営者としての道を歩み始めました。私はその三年後に生まれ、がむしゃらに働いていた両親のお陰で何不自由ない生活をし、跡継ぎ息子として周囲の人達からも可愛がってもらい、正直かなりワガママな人間に成長していました。
高校卒業後は理容の道へ進む為、東京へ修行に行かせてもらい、トップレベルの理容教育を受け、6年間で修行を終えました。そして店を継ぐつもりで実家に戻り、父の経営するサロンを手伝い始めました。その頃の私は東京で修行したのだという誤った自信から
「俺は俺のやり方でやるからな!」
「何の為に東京行ったか分からへんし…」
等と強気なワガママ発言を繰り返していました。父は父で創業経営者としての信念と元来の頑固な性格も手伝って、私達親子は四六時中、衝突していました。
ワガママ息子と頑固オヤジ、親子というお互いの甘えもあり、どちらも折れる事も、理解し合う事もできず、家族やスタッフの皆に嫌な思いをさせていたと思います。
おそらく理容業界だけでなく、世襲制の残る業界であれば、この様な事で悩んでいる親子がたくさんいるのではないでしょうか。
そしてそんな衝突を二十年近く繰り返していた数年前、父が病気で倒れました。今まで頑固で口うるさかった父が、急に気弱になり、私の意見に耳を傾け、理解してくれるようになったのです。私は戸惑いと寂しさを感じました。
「オヤジ、優しくなんかなるなよ!」
「死ぬまで頑固オヤジでいろよ!」
そう叫びたい気持ちと同時に、私の中にも素直な気持ちが生まれ、私のような‘跡継ぎ’の使命は「先代からの伝統を引き継ぎ、進化させながら次世代へと承継すること」であると考えるようになったのです。
そして「父の宝物であるこのサロンを理容に人生をかけた父の思いと共に引き継ごう。そして《どういうサロンにするのか?》という《夢》を『経営理念』として掲げ、これを実現する為の《仕事に取り組む姿勢》として具体的な『行動指針』を決め、創業者の思いを大切にブレない経営を志す事で父を安心させよう」と決めたのです。(資料②)
自店の経営理念は『すべてはお客様の笑顔のために』としました。これは父が直接言葉で言ったわけではなく、現役時代の父の背中から感じていた私なりの解釈であり、私がサロンの現場を引き継ぐ時、父が私に言った
「お客さんとスタッフを大事にしてくれよ」
という言葉から決めました。
そしてこれを実現する為の具体的な『行動指針』を《仕事に取り組む姿勢》として決めました。私はこれらを父との約束事として作ったのですが、スタッフにも、またお客様に対しての約束事として活用しています。
今まで「努力しなければ」「頑張らなければ」という気持ちがあっても、何を努力し、頑張って良いのか解らず悩んでいました。『行動指針』ができた事により、明確に何をすれば良いのかが見え、解決しました。
今では会計時に、ほとんどのお客様から「ありがとう」という感謝の言葉を頂いています。
欲を言えば、父親と一緒に働いていた時に、素直になって、父親とスタッフ皆で理解し合い、作れば良かったと後悔しています。
だから、もしも同様な悩みを持つ方がおられるなら、《理容とは?理容師としてどう生きるのか?》だから《どういうサロンにするのか?》を明確にする為、是非とも先代の思いと自身の経営哲学を込めた『経営理念』と『行動指針』を掲げられる事をお勧めします
資料②[時点の経営理念と行動指針]
②後継者=人材を確保・育成する為の二提言
提言①人材に選ばれるサロン環境作り
経営者の《夢》を具現化する為には、スタッフが育ち、《夢》が叶うサロン環境を作らなければなりません。理容業は、《お客様をカッコ良くする喜び、カッコ良くなったお客様の喜び、お客様から感謝される喜び、喜びに満ち溢れたやり甲斐ある仕事》です。やり甲斐あるサロン環境を作る事が、我々経営者の責務であり、急務であると考えています。
仕事にやり甲斐を感じる価値観は人それぞれ違うのかもしれませんが、「仕事にやり甲斐を感じるプロセス」は①自己成長が実感できる②人に認められ、必要とされる③成果に見合った評価が得られる、という経験の繰り返しにあると考え、サロン環境作りとして次の三つを提案します。
第一に、将来どういう理容師になりたいのか?という《夢》を聞き出し、一人ひとりの能力に合わせて教育カリキュラムを構築し、無駄のない指導で、最短距離で夢の実現へと導く教育システムを作る事が必要です。
第二に、できるだけ早いタイミングで、努力して体得した技術でお客様から認められる成功経験をさせる事も経営者の重要な役割です。直接お客様に触れる仕事をするまでは何となく肩身のせまい思いをしているものです。訳も分からずやらされていた練習が無駄ではなかった事が分かり、目的意識をもって楽しく練習できるようになります。「啐啄同時」という言葉があるように、そのタイミングを見誤ると、早すぎてお客様に迷惑をかけ、本人も自信が持てず傷つく事になります。逆に遅すぎるとモチベーションが低下してしまい次へ進めません。
第三に、大前提の労働条件として、就業時間・休日・賃金制度・保険制度等を今の時代にあった形に進化させる必要があります。いくら仕事の内容が好きでも、生活していく上での不安があっては、続けられません。
このようなサロン環境を作った上で、経営者である私とスタッフが《夢》を持ち続け、《夢》の実現の為に考え、実行し続ける為に、私は常日頃から意識している『経営理念』に込めた自身の経営哲学《理容とは?理容師としてどう生きるのか?》だから《どういうサロンにするのか?》をA4用紙に毎月一項目ずつまとめ、自店のスタッフに給与明細と共に手渡しています。この『月のメッセージ』は、縁あって一緒に働く事になった彼らの人生を、一時的に預かった者の責任として、彼らの将来の役に立つと信じて続けています。この事を通じて、彼らが何かを感じ取り、《夢》を持って理容の道を歩み続けてくれる事を願っています。(資料③)
提言②お客様に選ばれ続ける人材育成
お客様がサロンを選ぶ理由の一つは、そのサロン内の人間を好きかどうかです。つまり、個々のスタッフがお客様から選ばれる事で必然的にサロンが選ばれているのです。世の中には《選ばれる人》と《選ばれない人》がいます。選ばれる理由の一つは《期待》です。《期待》があるから人は人を選びます。だから《期待され選ばれる人》になる努力が必要です。
まず、カウンセリングでお客様から「こんな事で悩んでいる」「こうして欲しい」という悩みや要望を聞き出し、自分が今まで勉強してきた技術や知識で「こういう事をやってみませんか?」と解決策を提案し、実行します。お客様から「良いねっ!」と満足していただければ、それが《信頼》に繋がります。
この繰り返しが大切です。これができていればお客様から常に期待され、選ばれ続けるでしょう。(資料④)
資料③「月のメッセージ」(一部抜粋)
資料④[選ばれ続ける相関図]
結論
自身の「親からサロンを引き継いだ時の経験を通して、《理容とは?理容師としてどう生きるのか?》だから《どういうサロンにするのか?》を考え直すきっかけができ、サロンというチームのベクトルを合わす『経営理念』の必要性と有効性を強く感じました。
そして、今まで「努力しなければ」「頑張らなければ」という気持ちがあっても、何を努力し、どう頑張って良いのか解らずに悩んでいた事も、『経営理念』に基づいた『行動指針』を明確にした事で、結果として、サロン内の全ての人間が、同じ目的に向かって行動できるようになり、お客様に満足して頂く事ができるようになりました。
つまり、生き残るサロン経営を目指すのなら《経営理念・行動指針を、作り⇒掲げ⇒実行》して頂きたいのです。
今一度、理容とは?理容師としてどう生きるか?見直して頂くヒントになれば幸いです。