華僑の間で使われてきた言葉「三把刀」とは、料理人の包丁、仕立て職人の裁ち鋏、理容師の剃刀の3種の刃物を表わし、そのどれか一つでも一人前に扱えれば、職にあぶれず、どこででも暮らしていけるという意味を持つ――兵庫県神戸市の神戸華僑歴史博物館では、そんな言葉が生まれるほど理容と深い係わりを持つ、華僑の文化・歴史を紹介している。
神戸華僑は、神戸港が開港した1868年、貿易商や両替商、欧米人家庭の使用人などとして来神したことに始まり、同時に理容師も移り住んだと思われる。1870年の「The Hiogo News」(英字新聞)には、華僑の理容店のシャンプーの宣伝が掲載された記録があり、館長の藍璞さんは「華僑の理容師は、耳そうじ、マッサージ、顔そりがうまいとされていました」と語る。
1912年以前、清朝政府による弁髪の義務付けによって、華僑が経営する理容店では華僑客には剃髪と弁髪の手入れを行い、西洋人客にはカットやシャンプー、ヒゲの手入れなどを行っていたが、日本人客は耳そうじや顔そりだけを目当てに来店する人が多かったという。三把刀に代表される繊細な技術を持つ華僑は、後に耳かき専門職人としても活躍したが、その基礎は、この時期に、新規顧客開拓に寄与したものなのかもしれない。
こうしたエピソードのほか、神戸の華僑の記録写真や文献、美術品など、約200点を展示する同館。神戸の中華街・南京町からも程近く、観光ついでに出かけてみてはいかがだろうか。
●神戸華僑歴史博物館
住所/兵庫県神戸市中央区海岸通3-1-1
℡078-331-3855
交通/JR・阪神「元町」徒歩7分
開館時間/10~17時(水曜休館)
入館料/300円
(『理楽TIMES』H21.5.1付No.404掲載)