メイクには療法的効果が認められ、医療の世界からも、その効用には注目が集められている。理容の世界でも、療法的な観点から長年にわたって「理容セラピー」ともいえる心のリハビリに取り組む活動が行われている。
愛知県名古屋市の上野和彦さん(51歳)は、幼少の頃、頭髪の左半分を熱傷(火傷)によって失い、心ない扱いを受けた自らの体験から、同じ悩みを持つ人々の力になれればと、理容の道を志した。その後、その活動をさらに広めるため、医療や心理学の分野とも連携しながら「心のケア」に努め、その活動に賛同した理美容師等とともに日本熱傷ボランティア協会を設立した。
今年10月で30周年を迎える同協会は、熱傷体験者の交流会やカウンセリング、傷痕を目立たなくする化粧やカツラの講習会など、社会復帰支援活動を行い、相談者数は延べ30000人にも及んでいる。
上野さんは、本業に加え、執筆活動や講演などをこなすかたわら、心のケアにつながるカツラにも、保険制度が適用されるよう訴えるなど、新たな活動も始めている。
「カツラの耐久性、費用の面を見ても、利用者の負担が大きすぎます。身体の傷は治せても、心の傷はなかなか癒せません。1人でも多くの方が、希望ある、心豊かな生活を送れる環境を整えて行きたいです」と、心に傷を持つ人たちのため今日も奔走している。
(平成16年5月1日付け№344掲載)