屋号の由来には様々なドラマがあるが、山梨県の理容店「やまめ床」は、釣り好きで知られた作家、井伏鱒二が、ヤマメを3匹釣る間に、12匹ものヤマメを釣り上げた「ヤマメ釣の名人」がいる床屋として命名されたといういわれを持つ。
その名人とは依田喜史さん。平成元年に亡くなられたが、鱒二とは長年にわたり親交の深めた理容師だ。
現在のやまめ床店主、依田啓史さんは、30年程前、知人から「川釣り」という井伏鱒二のエッセイが送られてきたことで、やまめ床が井伏作品に登場していることを知る。
それをきっかけに、「やまめ床が登場する作品がもっとあるかもしれない」と調査を始め、井伏作品にやまめ床がある山梨県下部町(現・身延町)が数多く登場すること、下部で撮影されている写真が多いことなどに気付き、「この地で、井伏鱒二展を開きたい」という想いを抱くようになった。
そして、今年の6月22日から7月18日の約1ヶ月間、甲斐黄金村・湯之奥金山博物館で特別展「つり人・井伏鱒二~しもべを愛した文学者~」を開催し、長年調査、収集した資料を公開した。
依田さんは「簡単にできるかと思っていたが、いざ展示会となると、作業が沢山あり大変でした」と、開催までの苦労を語るが、「この文化的事業を発展させて町内に文学碑や文学館を建てたい」と、今後の取り組みにも意欲を見せている。
展示会の模様。やまめ床に関する資料も数多く展示されている |
(平成18年8月1日付けNo.371掲載)