東京都八王子市の名綱神社には全国的にも珍しい石碑が建立されている。碑には「業祖采女霊神」と刻まれており、理容師ならば、藤原采女亮が祀られていると思われるだろう。しかし、この碑には采女亮ではなく、「采女の宮」と呼ばれたとされる名綱三郎が祀られている。
八王子支部の寺田順一支長は「地元の豪族であった名綱三郎が、采女の宮として天皇の近くに仕え、身だしなみを整える仕事に従事していたと言われていることから、業祖采女霊神と刻まれているのではないか」と碑の謂れを語っており、建立100周年を迎えるにあたり歴史を調査したところ、詳細が判明したそうだ。
寺田順一支部長 |
さらに、多摩・八王子地区の頓智話を集めた書籍『もんじゃの吉』には「八王子には理髪業の神様がいます。中野の安土のある薺(なづな)神社で江戸期から明治、大正とよく栄えたお宮さんでした。祭神の名綱三郎夫妻は美男美女で、小野小町ともゆかりがあり、采女の宮でもあるので敬い尊ばれたといいます」と記されているそうで、名綱三郎は理容業者以外からも理容の神様と認識され、信仰を集めていたようだ。
碑は明治42年に八王子町理髪組合によって建立され、100年以上経った現在でも風化することなく堂々と佇んでおり、代々、大切に守られてきた。
八王子支部では、毎年1月の最終月曜日に祭礼を催し、境内を清掃後、清めを行ってから1年の健康と業界の発展を祈願し、参拝している。
寺田支部長は「重機がない時代に3mにも及ぶ石碑を建てることは大変なことで、先人たちを偉大に感じる。これからも毎年祭礼を行い、碑を守っていきたい」と語っており、名綱三郎への感謝と信仰は代々受け継がれることになりそうだ。
業祖采女霊神の碑 |
名綱神社
住 所 東京都八王子市暁町2-2
最寄駅 JR八王子駅より徒歩25分
(理楽TIMES H27.9.1 付No.480掲載)