東京都組合の中谷人志さん(59歳)は、12店舗の理容店を経営する傍ら、積極的に社会貢献活動を行っている。作家の藤本義一氏が阪神・淡路大震災で両親を失った子供たちのために作った「浜風の家」を支援する活動を率先して行っていることは、その代表的なものとして知られている。
中谷さんが平成8年に全国で初めて実現したバリアフリー理容店もそうした活動の一つと言えるだろう。オープン当時は一般社会的にもバリアフリーの考え方が浸透し始めた頃であったが、小規模施設である理容店がいち早くそのような店づくりを実践したことは行政も含めて大いに注目を集めた。
その後、バリアフリー理容店は徐々に全国に現れてきているが、その中でこの8月には、中谷さんのサロンの元スタッフが神奈川県平塚市にバリアフリーサロンをオープンした。別の元スタッフも10月のオープンを目指して現在、栃木県宇都宮市に建設中だという。中谷さんの精神はしっかり受け継がれている。
ところで、中谷さんが社会貢献活動に邁進するのは、自分本位の考え方が蔓延しつつある昨今の風潮の中で他者を思いやる精神の重要性を訴えるためであり、理容師がそのような活動を行うことで「理容業のイメージをアップさせ、理容業の社会的価値を高める」ためであると強調する。「自分は理容業のおかげでここまで来ることができました。ですから、理容業にその恩返しをしたいという一心なんです」。そのため中谷さんは、こうした活動をする上で自分の名前は一切表に出さないと言う。
「理容が社会的にもますます素晴らしい業として高まり、どんどん若い人が入ってきて活力ある業界になってほしいですね」と語る中谷さんの熱いまなざしは、これからも業界内外に向けてその光を発していくことだろう。
全国初のバリアフリー店として東京都から初の認定を受けた中谷さんのサロン |
(平成14年9月1日付け№324掲載)