Vol.45 理容師であり切り絵師 切り絵の基本を追求して高みを目指す 一條裕司さん(福島県)

一條さんの作品。
写真などの下絵の中に好きなイメージを足し引きできる、

創作する楽しさが切り絵の魅力だという

  「弟に『できる?』 と聞かれてカチンときましてね。刃物を持たせりゃ、理容師が一番だろうって」と語るのは、福島県郡山市の理容師・一條裕司さん。この会話をきっかけにして意地になってはじめた「切り絵」で数々の賞をとり、現在は全国切り絵同好会の講師を務めている。

  切り絵とは、黒い和紙をカッターで切り抜き、台紙に糊で貼り付けて、台紙の色とのコントラストで絵をつくるものだが、一條さんがこだわるのはモノクロの世界。色を入れた作品が多い中で、基本となる白黒の作品をつくり続けている。

  「切り絵では、季節感、立体感、生活感をいかに表現するかがポイントですが、そのどれか一つでも行き詰まったときに、色を入れる習慣があるとどうしても色の表現に逃げてしまって、作家として伸びなくなってしまうんです」とモノクロにこだわり、一條さんが編み出したという切り絵に彫形の技術を合わせた技法も“切り絵本来の表現から逃げているのかもしれない”と封印してストイックに創作にあたっている。

  仕事の合間や閉店後に、店の隣のアトリエで創作を重ねるため、月にできるのは1作品程度だが、これまでつくりためた作品は、約150点にまでのぼっており、地元のタウン誌の表紙や展示会などで披露されているほか、2000年からは個展も手がけ、1月には3回目の個展を開いた。

  「切り絵をしているときは、何も考えず集中できる楽しい時間です。難しそうに見えますが、切ること自体は理容師なら誰でもできると思いますよ。写真をもとにした絵の中に、どのようにイメージの人物や小物などを入れ込むかというバランス感覚は、理容設計学と通ずるところもありますし、ぜひ理容業界に広めたいですね」と一條さん。

  今後は見た人が懐かしく、癒される作品をつくっていきたいと、理容と切り絵の2足のわらじで、今日も髪と紙を切り続けている。

アトリエで創作に励む一條裕司さん

(『理楽TIMES』 H.20.7.1付け№394掲載)

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