「この辺りは、ちょっと掘るとすぐに土器が出てくるような土地柄なんです。私が住むこの土地に、何千年も前から人間が生活していたかと思うと、すごいロマンを感じませんか」と語るのは、神奈川県横須賀市の玉泉史郎さん。理容業のかたわら、地元・横須賀で出土した土器など、百数十点を展示した「玉泉考古館」を個人で運営している。 この展示品を収集したのは、父親の故・正夫さん。防空壕を掘った残土から古代豪族のまが玉を発見したことがきっかけで古代ロマンの虜となり、昭和25年に同地で行われた大規模な発掘の際、考古学を学んでいた弟さんの紹介で本格的に発掘の手伝いをするようになった。 |
文化財保護法で発掘が規制される前に集められた 土器や石臼、矢じりなどが所狭しと並ぶ館内 |
「父は仕事の前、休みの日には発掘へ出かけ、仕事が終わると土器の復元、ということを繰り返していました。ひどいときは3日間徹夜なんてこともありました。特に復元は、何の知識もないので大変なんですが、理容店にはいろいろなお客さまがお見えになりますので、お客さまとああでもないこうでもないと話し合いながら独自の復元方法を編み出していました。左官屋さんのアドバイスでできた手法などは、研究者が方法を教えて欲しいと家に来たほどです」と、当時を語る史郎さん。これらの実績から、小学校で土器の野焼き実習の指導をするなど、正夫さんは地元では考古学者として知られるようになった。 | |
理容店のお客さまから、今でも古い史料の情報を いただいているという玉泉史郎さん |
昭和41年に考古館を設立し「地元のものは地元に残すべき」と維持していたが、平成10年に「貴重な出土品を子供たちの教育に役立ててくれ」と遺言を残して他界し、現在、史郎さんがその遺志を継いでいる。 小学校の社会科見学や考古学を学ぶ学生、研究者らへの公開など、地元の教育、研究に協力しながら「息子や孫の代にもこの史料を引き継いでいきたい」と、地元の文化継承に尽力している。 |
■玉泉考古館
(『理楽TIMES』 H.20.10.1付けNo.397掲載) |