世界中の多くの理容師が愛用している鋏ブランド「JOEWELL」。ニハトリ印で名高い鋏メーカーである㈱東光舎を43年間、熟練の技と知識で支え続けてきた同社岩手工場次長の久多良弘さんが、昨年11月、厚生労働大臣より金属加工(金属手仕上工)の職種で卓越した技能者「現代の名工」を受賞した。 20年程前より担当しているのは、最も高度な技術を要する鋏の修理、研磨で、国内の第一人者と評されるほどだ。今では国内はもとより世界40の国と地域から毎月1000本もの鋏が久多良さんのもとに送られ、機械ではできない5ミクロン(1000分の5ミリ)の歪みまでもハンマーでたたいて矯正し、再生させている。 「刃のこすれた跡などの傷み具合により、使い手の癖がわかる」という久多良さんは、使われ方を判断し、癖に対応した微妙な調整に熟練の技を日夜注ぎ込んでいる。しかし、月に数本は再修理に返品されるものがあり「今の技術に満足せず、日々研究をしていかなければ」と、名工と呼ばれてなお、気を引き締めている。 |
表彰状を手にする久多良さん |
一本いっぽん手作業で調整する久多良さん。 ハンマーの力加減には熟練の技が必要 |
昨年は、東日本大震災の被害を受けた岩手県。災害直後には、津波による被害を受けた鋏の無料修理を受け入れ、連日遅くまでの作業に披露はピークに達したが、配送事情が困難な中、工場に直接足を運ばれた被災者に、鋏を手渡した時の笑顔が作業の疲れを吹き飛ばし、更なる励みにもなったという。久多良さんが修理した鋏は2000本にものぼった。 地元葛巻町出身で、中学卒業後、鋏一筋の人生を送ってきたが、「これからは、後進の指導にも力を注ぎ、この伝統の技術を絶やさずに伝えていきたい」と、今日も鋏と向き合う。 なお、久多良さんの功績は東光舎ホームページでも紹介されている。 |
(理楽TIMES H24.6.1付けNo.441掲載)